今や吉本の大御所になったダウンタウン(c)朝日新聞社
今や吉本の大御所になったダウンタウン(c)朝日新聞社

 私が所属していた吉本新喜劇には、独自のルールがある。

<毎日がミニコント>

芸人たるものは常に笑いを取るというのが、最重要課題であるため、舞台以外でもミニコントや大喜利などが頻繁に行われている。

 例えば先輩に、「今日、三回目の舞台が終わるまで、一日中タメ口で喋ってな」と言われた瞬間から、ミニコントがスタートするわけだ。そのお題に対し、「わかりました」と言ったらアウト。「わかった」が正解である。

 これは笑いを鍛えるには大変有り難い話だが、心配なのは、最初はいいのだが、そのうちにその先輩がミニコントの事を忘れてしまっていないかどうかである。

「そういえばさぁ」と話しかけた時に、「はっ?」みたいな顔をされたりすると、わざとなのかミニコントが終了したのかがわからず、「すみません」と謝ってしまうのが、大半である。

 もちろん舞台中は、セリフ通りに喋るが、舞台後は再開する。一回目の舞台後に昼御飯を食べに行く際も、その先輩にはずっとタメ口だ。ミニコントを知らない先輩が同席していると、不思議な顔をされたりもするので、随時説明も必要である。しかし、そこでも心折れず、タメ口で喋り続けた者が強靭な心臓の持ち主になれるというわけだ。

有名な話では、ダウンタウンの浜田雅功さんは、ミニコントでなく、後輩にはタメ口で喋らせているという話を聞いた。テレビでそれを聞かれた際に、本人は「おもろいやん」みたいな事を言っていたが、それは本人だけである。

 後輩からしたら、もしノリを間違えて、浜田さんの機嫌の悪い時に普段の癖でタメ口で喋ったものなら、間違いなくド突かれるだろう。ゆえに芸人は、空気を読む力が非常に必要になる。

 ちなみに、私自身が受けた最大のミッションは、バットボーイズの佐田正樹さん(福岡最大の暴走族元総長)に、ケンカを売って来いというものだったが、面識のない私がいきなりミニコントを仕掛けたところで相手に理解されるわけもなく、元総長にコテンパにされることが想像できたため、即座にお断りした。

 先輩の言うことは絶対であり、全ては笑いのための世界ではあるが、この世界で長生きするには断る勇気も必要だと学んだ瞬間である。

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