錦織圭は苦手の「ウィンブルドン」を克服できるか(写真:Getty Images)
錦織圭は苦手の「ウィンブルドン」を克服できるか(写真:Getty Images)

「ウィンブルドンの印象や思い出は?」

 以前に錦織圭にそう尋ねた時、「(ロジャー・)フェデラーですね」との答えが返ってきたため、その真意がつかめず少し戸惑ったことがあった。

 多くの日本人選手の場合……、いや、日本人に限らず、多くのテニスプレーヤーにとって、ウィンブルドンは「聖地」や「子供のころから出場を夢見ていた場所」など、幼少期の思い出に依拠する特別な感情が宿る場だ。しかし、錦織にとっては「フェデラーがとにかく強い」という、極めて現実的で客観的な事実が刻まれた大会。過剰な思い入れや憧憬は、どうやらあまりなさそうだ。

 代わりに錦織が今、ウィンブルドンに対して抱く思いは、過去の自身の戦績などに立脚したものである。

「まだここに来ると、他のグランドスラムに比べて、セカンドウィーク(大会2週目)に行く自信がそこまで出てこない」

 大会開幕を2日後に控えた会見で、彼は素直に微かな苦手意識を認める。

「芝に入ると、自然と敵がなんか強く見えるので……」

 昨年のこの時期には、苦笑い混じりにそう漏らしたこともあった。四大大会のうち、錦織が唯一ベスト8以上にまだ勝ち進めていないのが、ここウィンブルドン。まだ自信を抱けないのも、無理からぬことでもある。

 錦織が苦手意識を抱くのは、ウィンブルドンというよりも、芝のコートだ。錦織の勝率をサーフェス別で見ると、ハードコートが0.684、クレーが0.716で、芝は0.592。また、前哨戦のゲリー・ウェバー・オープンでの3年連続棄権に象徴されるように、芝は負傷率の高い鬼門的な場所でもある。

 芝が錦織にとって難しい理由は、いくつかある。まずは、滑りやすい足元。「僕の最大の武器である、フットワークが生かせない」というのは、過去に何度かこぼしてきた言葉である。

 さらには球足が速いために、サーブの速い選手に有利というのも、錦織には嬉しくない。

「普段はリターンが自分のプレーの鍵だけれど、サーブが良い選手が相手だと、なかなか簡単に返せない」

 そのためにラリーが続かず、得意とする打ち合いの中での組み立てや駆け引き、創造性を発揮しにくいコートでもあるだろう。

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