それでも、キャリアを重ねるなかで芝でプレーする機会も増え、この独特のコートで戦うコツを味得しつつもあるのも、また事実だ。

「芝でプレーするのは楽しいですね。もちろんストレスがたまる時もあるし、うまく自分のプレーが噛み合わない時も出てきますが、それでもプレーの仕方が最近は板についてきたというか、分かってきた。どうプレーすれば良いか頭に入っている」

 このような言葉は、過去の彼からはなかなか聞けなかったものだ。

 まだ大きな戦果を上げられていないということもあってか、錦織はこの大会での自身の立ち位置を「チャレンジャー」だと定義する。

「1試合ずつ戦うことが本当に鍵になると思う。あまり先を考えず、なるべく挑戦者の気持ちで」

 一つの試合のなかでも、目の前の1ポイントずつに集中した時の錦織は、強い。

 ウィンブルドンへの過剰な思い入れも、結果への過大なプレッシャーもなく「チャレンジ精神」で向かうその先にこそ、過去の自分超えがあるのかもしれない。(文・内田暁)