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選挙が始まると、あちこちで耳にする選挙カーからのあいさつ。「うるさい」「しつこい」と感じる人も多いだろう。果たして投票に効果はあるのか? 選挙カーでの名前の連呼を含む一連の選挙運動が、有権者の心理に与える影響を、市長選挙の候補者に密着して調べた関西学院大学(兵庫県西宮市)の研究結果が注目を集めている。
その研究とは、同大社会心理学研究センターの三浦麻子・文学部教授の研究グループが、2015年1月の兵庫県赤穂市長選を題材に、候補者の位置情報が、有権者の投票行動などに及ぼす影響を調査したものだ。
研究の結果、特定の候補者の選挙運動との距離が近ければ近いほど、その候補者に投票する確率が高くなることが分かった。「人口5万人弱の赤穂市では、選挙カーで候補者の名前を連呼するといった、どぶ板的なやり方にも効果が見られました」(三浦教授)。
具体的な調査方法はこうだ。候補者3人のうち、1人の男性候補者の許可を得て、研究グループの1人が、告示日から投票日前日までの7日間、選挙運動に張り付き、スマートフォンのGPSアプリで10秒ごとの位置情報を記録。併せて、街頭演説や練り歩き、選挙カーでの移動といった運動の内容や、その開始・終了時刻などのデータを収集した。
さらに投開票日以降、無作為に抽出した有権者2000人に、投票した候補者や各候補者への好感度、選挙運動への接触の有無、自宅の住所などを尋ねる調査用紙を送付。返送されてきた908人の回答と、選挙期間中に集めたデータとを突き合わせ、分析していった。
選挙期間中、街頭演説や選挙カーでの運動が行える午前8時から午後8時までを中心に、毎日候補者に密着して集めた位置情報は、7日間で3万1617時点、時間にして合計87時間49分30秒間に上った。
候補者はどのように行動していたのか? 主な選挙運動の内容と、それぞれにかけた所要時間を見てみよう。記録した運動の中で、最も多かったのは、名前を連呼しながらの選挙カーでの移動だった。時間にして13時間14分、全体の活動の15.1%を占めていた。