「あそこは取りたかったですね。ショックではありました」

 落胆はありながらも、「忘れるしか方法はない。気持ちを切り替えよう」と自分に言い聞かせ、その2ゲーム後に得たブレークチャンスは一発で物にする。3ゲーム連取で第1セットを奪取すると、その流れを手放すことなく、第2セットも第1ゲームをラブゲームでブレーク。特にこのゲーム最後のポイントは、コートカバーの広さと不屈の闘志を誇るフェレールをフォアで左右に振り回し、最後はドロップショットをスルリと沈める錦織の真骨頂と言えるプレー。そしてそれは前日の練習で、スタン・ワウリンカとの1時間以上に及ぶ試合形式の後に、ボッティーニコーチと共に何度も繰り返し確かめたポイントパターンでもあった。

 約1カ月半ぶりの試合となった先週のマドリードでは、「様子を見ながら」「いつ痛みが出てくるか」と慎重な言葉が並んだが、今大会では冒頭にも触れたように、上位進出に対する意欲が言葉の端々、そして表情から滲む。

「マスターズも、グランドスラムと同じくらい重要な位置に考えている。できればここで、大きな結果を出したい」

 その目指す「大きな結果」に向け、まずは快調な一歩を踏み出した。(文・内田暁)