「彼女もレコーディングを楽しみにしている様子でした。そんないつも通りの会話が最後になってしまった。この日ではありませんが、投薬のせいで、頭がぼうっとするとも話していました」

 あまりにも突然のことでもあり、坂井さんは自ら死を選んだのではないか、という噂も流れた。

「でも、レコーディングを楽しみにしていた様子からも、やはり転落事故だったとしか思えません。とても残念です」

 坂井さんが今も存命だったら、どんなシンガー・ソングライターになっていただろう。

「言葉をいっぱい書いていると思います。案外、中島みゆきさんのような方向になっていったかもしれません」

 ZARDのキャリアのすべてをプロデュースしてきた長戸氏に、あくまでも主観で、ZARDのベストナンバーを3曲あげてもらった。

 その1曲目は「Forever you」。

「実は、坂井さんがZARDとしてデビューする前の、過去の写真集が出版されそうになったことがあります。その時の心情を歌った曲が『Forever you』です。過去を否定しない、後悔はない、という内容です」

 2曲目は「心を開いて」。

「“ビルの隙間に二人座って 道行く人を ただ眺めていた”というような、どこにでもある情景を切り取って作品にしているところが凄いと思います」

 3曲目は「サヨナラは今もこの胸に居ます」。

「栗林さんの書いたメロディーに、坂井さんの言葉がものの見事にはまっています。すでにあった曲に坂井さんが歌詞を書いたわけですが、この歌詞のために書かれたメロディーで、このメロディーのために書かれた歌詞だと思えるほどです」

(文/神舘和典)

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神舘和典

神舘和典

1962年東京生まれ。音楽ライター。ジャズ、ロック、Jポップからクラシックまでクラシックまで膨大な数のアーティストをインタビューしてきた。『新書で入門ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)『25人の偉大なるジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)など著書多数。「文春トークライヴ」(文藝春秋)をはじめ音楽イベントのMCも行う。

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