「厚生労働省は、セルフメディケーションという名目で、これまで処方箋が必要だった薬を市販化に向けて動いています。おそらくは医療費削減が目的なのでしょうが、こうした施策が市販薬乱用の危機感を下げているのは事実です。一度、市販薬の販売について考え直す時期がきているのかもしれない」

 ブロンを販売するエスエス製薬、そしてこちらも乱用される傾向にあるパブロンゴールドを販売する大正製薬にも、市販薬が乱用される現状をどう見ているのか尋ねた。

 エスエス製薬の担当者は「本製品(ブロン)に関してこれまでも、一人一個販売をしていただくといったような対応をしてきました。定められた用法・用量に従ってご使用いただけるよう、引き続き薬局・薬店を通じて適正使用に関する情報提供に努めます」と回答。

 大正製薬の担当者からは「医薬品メーカーとして、このようなことは許容できません。過剰摂取や適用外使用されている方から問い合わせや相談を受けた際は『即刻使用をおやめください』とお伝えするとともに、適用外使用情報として、厚生労働省に報告をしています」との回答が寄せられた。

「肝心なのは、市販薬を乱用するのがどんな人々で、何が目的なのかを知ることです。多くはうつ病を患っていたり、トラウマがあったり、自殺のリスクが高い人々。他人に対する不信感があり、社会で一歩前に進むことができない彼らが、多少なりとも折り合いをつけ、働くために薬を使っているケースが少なくないのです」(前出の松本医師)

 そんな彼らは「多少健康に悪くても、社会で活躍するためにやっているんだから、何がいけないの?」という発想に陥りがちだという。周囲の人間がやめさせようとしても簡単には受け入れない。

「私の経験上もっとも効果的なのは、家族が政令指定都市などにある精神保健福祉センターに相談にいくこと。心の問題に特化した保健所のような機関です。もちろん、相談するだけで事態がすぐに好転するわけではありません。しかし、不思議なのですが、家族がそうした取り組みを続けていると、乱用者本人もだんだん問題意識を持ち始め、治療を受けたり、使用量を減らそうとチャレンジしたりするようになります」(同前)

 周囲が正しい知識をもち、寄り添う姿勢を示すことが肝要だ。(取材・文/dot.編集部・小神野真弘)