高齢者の肺がん手術を積極的に実施している病院が、倉敷中央病院(岡山県)だ。全国7位の254例(14年)の肺がん手術をおこなう。15年に同院で肺がん手術をした人のうち、80歳以上の割合は19.8%。前出の全国平均よりも割合が高い。

「ここには手術ができるくらい、元気な高齢者が多い。簡易生命表(その年齢の人があと何年生きられるか示したもの)によれば、80歳の男性はあと9年、女性は12年生きられるけれど、がんを放置してしまうと遅かれ早かれ進行・転移し、2年生きるのも難しい。早期の肺がんであれば、80代前半ぐらいまでは根治的な手術を受けるべきだと考えています」(奥村医師)

 しかし、加齢や持病などにより心肺機能が弱くなっている高齢者ほど手術のリスクは高まる。それについて奥村医師らは、02~11年に手術をした非小細胞肺がんの80歳以上の患者209人について、分析、検討を試みている。

 その結果、病気の進行度を示す病期(ステージ)では、手術の適応となるステージIが157例、ステージIIが24例で、対象者の95%が不整脈や糖尿病、虚血性心疾患などの持病があった。術後に合併症を起こした人は44人(21.1%)。その内訳は肺炎(主に誤嚥性肺炎)、肺瘻遷延(空気が漏れる)、心房細動、呼吸不全などだった。術後30日以内の死亡(手術死)は1人。死因は肺炎だった。

「術前の持病は、80歳未満の患者と比べると、80歳以上の高齢者が圧倒的に多く、術後の合併症もやや多かった。術後の入院日数は変わりませんでした。死亡率については、日本呼吸器外科学会がまとめた全年齢層の平均と同等でした」(同)

 興味深いのは5年生存率だ。同科の80歳以上のステージIの5年生存率をみると66.6%で、他の報告よりは良いが、全国がん(成人病)センター協議会の「生存率協同調査」の全年齢の5年生存率82.9%よりも低い。これについて奥村医師はこう分析する。

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