「高齢者の手術にエビデンスや事前評価の方法を作っていくのは難しいです。私の知る限り、現在、学会などでそのようなものを作る動きもありません。内科から外科に送られてくる段階や外科医が患者さんの状態をみた段階で、手術が適しているかどうかきちんと見極められているはずです」

 週刊朝日ムック「手術数でわかるいい病院2016」で肝胆膵がん手術の全国ランキングで4位、原発性肝がんだけの手術数で7位の東京大学病院を取材した。肝胆膵外科教授、國土典宏医師は、こう話す。

「若い人の感覚で85歳というと、『私はもう十分生きましたから手術しなくてもいいです』と言うと思うでしょう。しかし、実際にはそういう人は少ないんです。がんが見つかって『このまま何もしないならあと半年くらい。手術すれば2年は生きられる可能性が十分ありますよ』と説明すると、多くが『2年でも生きられるなら手術したい』とおっしゃるのです」

 高齢者(75歳以上)の手術は、若年者(非高齢者、75歳未満)に比べて、術後の5年生存率に違いはあるのか。國土医師は、論文執筆前のデータなので詳細な数値は掲載できないとしつつ、1994~2011年の同院の原発性肝がん(約800例)のデータを見せてくれた。

 そのデータでは、75歳以上の高齢者の群と75歳未満の若年者の群では、「5年生存率に差はなし」だった。がんのステージをそろえていないので厳密な比較ではないが、これは肝がん以外の他病死も含んだ結果という。

 治療法の選択として、高齢者は若年者に比べて、「手術を選択する割合」が減り、「手術以外の治療法を選択する割合」と「他施設への転院の割合」が増える。

 高齢者にとって、手術はからだへの負担も大きいため、手術を選択しない割合が増えるのはうなずける。國土医師は「手術死亡例がゼロで5年生存率に差がないのは、当院が適切に手術すべきかどうかを見極められている証拠でもある」と語る。

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