――宇宙という異空間でことを成すには、「幅」があり、風通しの良いチームが必要だという。一方で、個人がブレイクスルーするための姿勢をこう考えている。

 コンフォートゾーン、という言葉をご存じですか。居心地のいい場所という意味ですが、私が最初にコンフォートゾーンを出たのは、大学院を休学し、アメリカに留学したときでした。

 宇宙飛行士という夢はありましたが、当然アメリカに行っても叶う保証はありません。また親にも反対されましたが、行ってみたら世界が広がりました。目標を見つけ、守りに入らなければ、何歳になっても変化は起こせると感じました。成長したいときは、今いる住み慣れた場所や発想の外に出て、新しい考えかたに触れるといいと思います。

 また、私は訓練を始めて3年目に出産しましたが、これもコンフォートゾーンの外のできごと。子どもを育てながらの訓練は容易ではありませんでした。

 アメリカの先輩宇宙飛行士には子どもがいる方もいたので、不可能ではないとは思っていました。とはいえ簡単でもない。そんなとき、女性の先輩宇宙飛行士の一人に相談したら、「チャレンジングだけれど、インポッシブルではない」と言われました。

 確かに、子どもがいるからこそ時間管理が上手になりましたし、「Think ahead(あらかじめ考える、先を読む)」が必要なので、優先順位やリスク管理能力も上がりました。コンフォートゾーンを出たからこそ、できるようになったことです。

 地球に戻り、宇宙船から外に出たとき、風が吹いていました。そのあと、土や緑の匂いが漂ってきた。「ああ、地球へ帰ってきたんだ」と強く思いました。宇宙空間にはない、生命の香りです。地球では当たり前のことが、とても美しくて素晴らしいと分かった。宇宙から戻ると、地球そのものが、私たち人類が暮らす一つの宇宙船で、かけがえのない存在だと分かりました。

 将来的には、たくさんの人が宇宙へ行けるようになるといいですね。私もまたいつか宇宙に行く日を夢にみながら、宇宙と地球の素晴らしさを伝える「宇宙教育」をしたいと思っています。地球の素晴らしさを再確認すると同時に、宇宙を通じて、挑戦することの大切さを知って頂けたらと思います。(取材・文/矢内裕子)

※『イノベーションファームって、なんだ?!』より