「歌舞伎俳優は体重があったほうがいいんです。だけど、その一方でシャープでなきゃいけない。僕は体脂肪が一番ないときで4パーセントだった。でも、それで舞台をやったら、無茶苦茶しんどいんですよ。結局、やってて一番いいのが、11、12、13パーセントで、疲れ知らず。いまは、12.7パーセント。僕たち、瞬発力勝負でありながら、マラソンしているんです」

 いま、そんなアスリート顔負けの生活を送っている海老蔵は、数年前の自身をこう反省する。

「ダラけてましたよ。舞台は舞台、テレビはテレビ、舞台でちゃんとやっていれば、ほかはどうでもいいじゃないかって思っていたんですよ。舞台をやったならば、別に道で人から声をかけられても、『関係ねえよ、なんなの? 俺、いまプライベートなんだから』というスタンスでいた。あるいは、映画がクランクアップしたら、次の仕事まで1週間ぐらい自由じゃないですか。それは浴びるほど酒も飲んだし、ダメなパターンでしたね」

 しかし、そんな日々は過去のものになっている。

「昔は、サウナに行って汗かいたあと、街にフラフラ出たりしていた。でも、いまは家に帰る。それは子どもの、家庭の存在が大きいですよね。子どもが教えてくれた。結論としては、一番自分が納得する状態じゃなければ生きている価値はない、ということです」

 来年は円熟の40代に突入する。そして、歌舞伎は変わらず、続く。海老蔵は、さらなる先をこんなふうに見据えている。

「いまは上辺だけの幸せが世にあふれているけど、僕はもっと五感を磨くことが本当の幸せにつながるんじゃないかと思っているんです。だから、僕が財団か何かをつくって、たとえば、長野県とか新潟県とかの山に村をつくる。自然な飯と水で、とにかく半年ぐらい過ごす。いま、都会で暮らしていたら、これ(携帯電話)がある時点がストレスだし、人と会うことだってストレスだし、お金がストレスだし、そういうことを考えない時間を強制的につくる。そういう施設をつくることがいま、実は新しい生活スタイルじゃないかなと思っています」

「実際にやる日がくると思いますか」と尋ねると、こう答えた。

「いや、僕、やると思うよ。妻がこういう形で病気になっちゃって。若い状態でガンになった人を救いたいという気持ちがすごく強くて、彼女はそういうのをしたいなと夢を見ているらしいんです。僕はそれを最大限バックアップしたい。結局、病気にならないためにはノーストレスな空間が一番根本。そういう場所が爺ぃまでにできたらいいな、と。それで、余生はそこで暮らす。村長さんみたいな感じで。歌舞伎は別に半年休んだっていいじゃないですか。きれいな空気と水、おいしいごはん、それで屋根のある家だけあれば、どれだけ幸せなのかということを実感したいですね」

(文・一志治夫)

※アエラスタイルマガジン33号より抜粋