今年の目標だった「マスターズ制覇」は叶わなかったが、達成まではあとわずか。来季の実現が期待される。(写真:Getty Images)
今年の目標だった「マスターズ制覇」は叶わなかったが、達成まではあとわずか。来季の実現が期待される。(写真:Getty Images)

 6月の全仏オープン後、悲願の世界ランキング1位獲得に燃えるアンディ・マリーは42勝3敗の驚異的な戦績を残し、逆にあれほどの強さを誇ったノバク・ジョコビッチは、16勝4敗と失速する――。

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 かくも対照的な上昇曲線を見せる両者の足跡はついに、レギュラーシーズンの最終戦であるパリ・マスターズで交錯した。準々決勝でマリン・チリッチに破れたジョコビッチは1位の座から陥落し、決勝まで勝ち進んだマリーは29歳にして、ATPランキングシステムが導入された1973年以降26人目となる世界1位選手となった。ちなみにジョコビッチを破ったチリッチはこの勝利で、年間上位8選手が出られるツアーファイナルズの出場権を獲得。また、既にツアーファイナルズの出場権を手にしていたミロシュ・ラオニッチは、足の負傷を理由にマリーとの準決勝を戦わず棄権。そして、やはり既にツアーファイナルズ出場を決めていた錦織圭は、地元パリで最終戦への切符の可能性を微かに残すジョーウィルフリード・ツォンガに、3回戦で6-0、3-6、6-7 のスコアで敗退。それが、今年のレギュラーシーズン最後のトーナメントであるパリ・マスターズに広がっていた景色である。

 過去の対戦で5勝2敗、今年1月の全豪オープンでもストレート勝利を手にしていたツォンガは、錦織にとって比較的くみしやすい相手であった。スピードはあるがコースの打ち分けにやや偏りのあるツォンガのサーブは、錦織からすれば、さほど攻略が難しくない。相手が苦手とするバックでの打ち合いでは、絶対的に優位に立てる。その利点を生かし、今回の対戦でも錦織が第1セットは6-0と圧倒した。だが、錦織が太もものマッサージを受け迎えた第2セット以降、両者のプレーと闘争心は、対照的な推移線を描きだす。地元の声援を背に戦うツォンガはコートを縦横に駆け、自慢の右腕で強打を叩き込んでは、会場の熱気と自身の闘志を一層掻き立てた。それでも第3セットは錦織が2本のマッチポイントを手にしたが、この場面で相手のリターンはネットに触れると、無情にも錦織のコートにポトリと落ちる……。あまりに不運な形でチャンスを奪われた錦織は、最後はダブルフォールトを2連続で犯して、勝利の権利を手放すことに。試合の終盤で急激に反転した流れは、そのまま最後まで変わることはなかった。

“マスターズ優勝”は、今季の錦織が掲げていた一つのゴールであった。今回のパリがその目標達成の最後のチャンスではあったが、優勝にまい進するには困難な要素が揃った大会でもあったろう。10月の楽天ジャパンオープンで負った臀部(でんぶ)の負傷からは、前週のバーゼル大会で復帰したばかり。そのバーゼルでも、「ロンドン(ツアーファイナルズ)で良いプレーをすることが一番の目標」と語っていた錦織にとっては、例えば1位を狙うマリーのように、あるいは優勝すればロンドン行きの切符をつかめたツォンガのように、身体の内から燃え盛る何かを見いだすのは難しかっただろう。温暖多湿のフロリダから、既に冬の気配漂う欧州に渡ってきたばかりでは、その環境の変化やインドアコート特有のボールの跳ね方・飛び方に、身体がなじまぬ側面もあったはず。コート上で首をかしげ、苛立たしげに声を上げる姿は、それら種々の要素が噛み合わぬもどかしさの発露のようでもあった。

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