なぜ、主張が分かれるのか。焦点は、人口動態と需給バランスにある。前述のとおり、25年には医師数がOECD平均並みになり、人口が減少していく社会で供給過剰になる、というのが医療界の主張だ。

 だが、東京大学の研究グループが、日本医療を予測した論文(12年発表)によると、総人口は、10年の1億2700万人から35年の1億1千万人へと13%減少。35年には65歳以上の高齢者が総人口の39%を占め、日本は人類史上前例のない高齢化社会を迎える。さらに総死亡者数は、10年から35年の25年間で42%増加する。75歳未満の死亡者数が28%減少する一方、75歳以上の死亡者数は88%増加するので、後期高齢者の看取りは現在のおよそ2倍になると目される。

 医師数はどうか。35年までに27.1万人(10年)から39.7万人と46%も増加する。ただ、「現役世代」である60歳未満の医師数は21.6万人から25.5万人の18%増加にとどまる一方で、60歳以上の医師数は5.5万人から14.1万人へと155%増加。つまり、医師数は増加するが、高齢医師の増加分がきわめて大きくなることがわかる。高齢者が高齢者を診る「老老医療」の時代が到来するのだ。

 現在、日本人の78.4%は病院で死亡している。在宅医療の普及が望まれるが、入院患者が劇的に減少する見通しは立っていない。総死亡者数が42%増加したとき、はたして医療現場は耐えられるだろうか。加えて、現役世代の医師数は18%しか増えないのであれば、医師の需給バランスが取れているとは言い難い。

 医療界は、医師が都市部に集中して地方に根差していない“偏在”が問題だとし、この解決を強く望んでいる。しかし、医師の「選択の自由」を認めている以上、早期に解決するめどは立たない。

 新設反対派の主張のなかには、医学部定員の増加で学生の質が低下したとの声もあるが、医師不足に伴って教員も不足しがちとの指摘もある。

 医師不足に伴い、医療現場が疲弊しているとの声も上がっている。もっとも、医師不足の“ツケ”を本当に払わされているのは一般市民だ。医学部新設と医師数をめぐる問題について、国民的な議論が必要なのかもしれない。(文・加藤弥)

※週刊朝日ムック『医学部に入る 2017』より