――落ちこぼれのいじめられっ子だった似鳥さんが、どうしてこれほど大きな成功を収められたのでしょうか?

 こうして振り返ると、若いころと今のあまりの落差の大きさに、自分でも「夢みたいだ」と驚いてしまいます。そんな私が事業を興して成功できたのは、「ロマン」と「ビジョン」があったからです。

──それは、ニトリが掲げる「成功の5原則」の最初の二つですね?

 そうです。私は「ロマン」「ビジョン」「意欲」「執念」「好奇心」を「成功の5原則」と呼び、ニトリの社員たちにもこの5つが大事だと繰り返し言っています。

 ロマンとは、「人のため、世のために、人生をかけて貢献したい」という気持ち。いわば、大志です。私は子どものころもサラリーマンになってからも、ずっとろくなことがありませんでしたが、今思うとそれは私が人生の目的を何も持たずに、行き当たりばったりのその日暮らしをしていたからなのです。

 そんな私の考えが根本から切り替わったのが、1972年、27歳のときです。経営がうまくいかず、借金を抱え、うつ状態になって死ぬことばかり考えていた私が、わらにもすがる思いで参加した、家具業界関係者によるアメリカへの視察旅行で、私は変わりました。

――アメリカのどういった部分が似鳥さんを変えたのでしょうか?

 アメリカのほうが所得が高いうえに、物価ははるかに安く、品質も機能も日本以上でした。しかも、家具を含めた内装が、トータルコーディネートされていたのです。日本では今でもそうですが、「家の内装を全体として美しく見えるようにコーディネートする」という考えがありません。私はそれまで売上や利益のことで頭がいっぱいでしたが、アメリカに行ってからは「日本人たちの暮らしを、アメリカのようにしたい」と考えるようになりました。「アメリカ人にできて、日本人にできないはずはない。自分の仕事を通じて、日本にもアメリカのような豊かさを広げていこう」。アメリカで受けた感動が、私の人生観を変えたのです。

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