夫の定年退職に合わせて13年前、故郷の富山市に移り住み、自宅兼ギャラリー兼アトリエを建てた。3年前に夫が肝臓がんで他界し、2年前には卯尾田さん自身も肺がんの診断を受ける。その後、余命宣告を受け「秋に予定していた個展を前倒しして開催しよう」と即決してからは、1カ月で40体を仕上げた。これまで年間10~20体をじっくり作ってきたペースと比べれば、全力を傾けて1カ月間、猛ダッシュしたことになる。個展に向けて作った40体の多くは、多くが笑いだった。

「意識したわけではないけれど、自然にどれも穏やかな顔立ちに仕上がりました。亡き夫、娘、娘の長男と受け継がれているふっくらとした優しい顔立ちに似ています。細い目の笑い猫ばかり。今回は娘との“母娘展”だから、ちょうどよかった……」(卯尾田さん)

 娘の金子牧子さんが扱うアンティークのアクセサリーも合わせた展示は、7月22日から2日間にわたって行われ、多くの人が訪れた。牧子さんによると、卯尾田さんは個展を終え、緩和ケア病棟を備えた総合病院に入った。抗がん剤治療に回復の望みを託すという。

「生きた証しを残せたと思う。がんと言われてからも、ずっと笑って過ごしてきました。私らしい“スタンピング”になったでしょ?」(卯尾田さん)

 気持ちいいほど潔い言葉が耳に残った。

(ライター・若林朋子)