4)林邦史朗


昨年惜しくも亡くなった殺陣師・林邦史朗は『真田太平記』で殺陣指導を行っていた。そして『真田丸』では武田信玄役として出演している。NHK大河に数多く携わっている人物だけに偶然かもしれないが、狙ってやったのだとしたらマニアックな配役である。

5)佐助
藤井隆が演じる佐助という忍び。真田十勇士が登場する後世の講談などには、架空の人物であろうと思われる猿飛佐助という忍者がいる。しかし今回、三谷は虚構の英雄・真田幸村ではなく、実在の武将・真田信繁を描くと宣言している。そのようなドラマに猿飛佐助をモデルにした人物を出すとは考えにくい。佐助は真田十勇士の猿飛佐助ではなく、『真田太平記』に登場する向井佐助からとってるのではないだろうか。

6)お江
『真田太平記』にはお江(こう)という女忍びがいる。池波正太郎の原作では影の主役ともいうべき重要人物だが、『真田丸』では長野里美が「こう」という名前で出演することが発表された。『真田丸』の登場人物は、三谷とスタッフが相談をして名前をつけているということなので、偶然ということはないだろう。「こう」は信幸の妻ということだが、名前に意味があるのか、三谷流の肩透かしなのか、注目したい。

7)壺谷又吾郎
『真田太平記』には壺谷又五郎という忍びの棟梁(とうりょう)がいた。夏八木勲演じる壺谷は、忍びを率い、真田昌幸を陰から支えた盟友ともいうべき存在。『真田丸』で忍びを率いる出浦昌相(寺島進)は史実でも活躍した実在の忍びで、おそらく壺谷のモデルとなった存在だ。『真田太平記』の壺谷又五郎を、『真田丸』では出浦昌相として出演させている格好だ。

 このようにいくつものポイントで似ている『真田丸』と『真田太平記』だが、当然まったく別の作品であって、なかでも一番の違いは主人公が誰かということだろう。

 『真田丸』では真田信繁(幸村)。大坂の夏の陣で家康を追い詰めながらも散っていった悲運の勇将だ。『真田太平記』の主人公は真田信之。関ケ原で父や弟と別れて徳川方につき、松代藩主として真田の血を残した智将。

三谷幸喜は、新選組など時代に取り残されてしまった敗者にまなざし を注ぐのが特長。一方『真田太平記』を書いた池波正太郎は、どちらかというと知略を尽くし己を殺してでも生き残ろうとあがく人間の姿にドラマをみていたのではないか。

 同じで素材でも、原作のふたりが描こうとしているのは対照的なテーマといえる。

 『真田丸』をより味わい深く楽しむために、『真田太平記』の原作にもこの機会にぜひ触れてみてほしい。