「繁殖地のデータと、不時着の鳥のデータを分析していると、オナガミズナギドリの若鳥たちが何時頃に飛び立つかとか、いつぐらいから巣立ちだすかなどが見えてくるようになりました。すると、あれっ、もしかしたら不時着した鳥が事故に遭うのを予防できるんじゃないか? と発想が転換されたんです」(鈴木さん)。
オナガミズナギドリは、南島では繁殖期に400近い巣を作る。巣立ちは11月中旬〜12月中旬。巣立つのは夜。父島で日没から午後9時、午前0時、午前3時と夜間パトロールしていくと、ほぼ午前0時前までが不時着のピークと分かった。そこで鈴木さんたちは自主的に飲み屋を回り、「鳥が落ちていたら連絡ください」と携帯番号を書いたチラシを貼らせてもらった。飲み屋帰りの人々が、鳥を見つける確率が一番高いからだ。あわせて、自分たちもパトロールを行い、不時着している鳥を見つけては保護するようにした。すると、以前は朝、あちこちの道路で見かけたれき死体が激減するようになったのである。
もうひとつが、鳥を引き寄せてしまう光源についての取り組みだった。少しでも光を少なくして、鳥を誘引しない方法は無いものか?小笠原では、父島、母島それぞれの中心部にあるガジュマルの木に、村や青年会がクリスマスイルミネーションを飾る。冬も暖かな南の島とはいえ、やはりクリスマス気分は盛り上げたい。しかし、鈴木さんたちは「オナガミズナギドリの巣立ちが終わるまで、ライトアップを止めることはできないだろうか」と村に呼びかけた。
民宿やペンションも、この時期、観光客のためにイルミネーションを飾るので、1軒1軒、訪ねて話をした。すると、自然ガイドもやっており、村のイルミネーションのすぐ向かい側にあるペンションのオーナーが「鳥のためにライトアップやめましょうっていうマイナスの表現より、『この鳥の巣立ちが小笠原のクリスマスを連れてきます』っていう言い方にしたらいいんじゃない? 協力するよ」と言ってくれた。それ以来、このペンションは鈴木さんたちから「巣立ちが終了しました」と連絡が来るまで、ライトアップはしないようになった。
こうして少しずつ、この問題も住民に知られるようになり、2008年には母島の住民の間から「この時期だけライトダウンしてはどうか?」という提案が出た。都営住宅の廊下や、無くても困らない場所の街灯などが消されるようになった。
島内の施設でも、漁協の製氷施設が建て替えの際、白い建物が光を反射して白く浮かび上がるのを防ぐためにライトの位置を考慮した。また、浜辺近くにある「小笠原ビジターセンター」では、海岸部にあるフットライトをこの時期消灯するようになった。ライトダウンが島で受け入れられた背景には、産卵時期、同じように光に誘引されるアオウミガメに配慮したライトダウンが行われていたからかもしれない。小笠原は日本最大のアオウミガメ産卵地なのだ。
2009年ぐらいからは小笠原自然文化研究所の働きかけで、東京都小笠原支庁もこの動きに大きく関わり、それまで鈴木さんたちが自主的にやっていた「オナガミズナギドリレスキュー講習会」を引き取り、父島母島両島で開催するようになった。住民に向けて「オナガミズナギドリってこんな鳥」と生態を解説したり、保護された個体がいれば、都の鳥獣保護員の解説付きで実物をみせて鳥の色や顔つき、におい(油のようなにおいがする)を実感してもらうようにしている。
都の鳥獣保護員であり、小笠原自然文化研究所のスタッフでもある鈴木直子さん(49)は、
「小笠原にはオナガミズナギドリのほか4種のミズナギドリがいます。そのうちの1種は、かつて絶滅したとされていたところ、2012年に小笠原海域で奇跡の再発見を遂げた世界的希少種、オガサワラヒメミズナギドリです。今でも世界で20羽程度しか確認されていないこの鳥も、不時着する可能性があります。
まだまだミズナギドリの不時着情報は島全体に行き渡っていませんが、“小笠原のクリスマスはオナガミズナギドリが運んでくる”をキーワードに、情報を広めていきたいと思います」
と、今年の巣立ち後に点灯されたクリスマスイルミネーションを見ながら語ってくれた。(島ライター:有川美紀子)