このため、相手がフレッシュな状態の前半は、フィジカルに強い本田もボールキープに苦労し、香川や宇佐美はほとんど攻撃に絡めなかった。日本が得意とする「グループ戦術」、いわゆる味方のサポートを含め数的優位な状況であれば個人技を発揮できる香川や宇佐美だが、ハリルホジッチ監督が求める「タテに速いサッカー」ではパスを受けると厳しいマークに遭いながらも“個の力”で突破するデュエル(個の強さ)が求められる。

 これまでのW杯アジア2次予選では、相手が格下のため守備を固めて自陣に引いていた。このため、日本は数的優位な状況でボールを支配できたので、香川や宇佐美も余裕を持って得意のドリブル突破で攻撃陣をリードした。だが、タイトなマンマークに遭うと、その才能を発揮するのは難しい。そのことを体験できたことがイラン戦の一番の収穫といえる。

 仮に、日本が2次予選を突破して最終予選で韓国やオーストラリアと同じグループに入れば、イランよりも、よりハードなマンマークが待っていることは間違いない。その時に香川や宇佐美はフィジカルのハンディをどう克服してスキルを発揮するのか。イラン戦は大きな宿題を与えられたと言ってもいいだろう。

 ほかにも収穫はある。敵地で2引き分けとアジア2次予選で苦戦しているイランは、かつて日本を苦しめた強敵ではなかった。前半こそフィジカルの強さから速攻でチャンスをつかんだが、後半の失速は90年代のアリ・ダエイらがいた黄金時代の試合巧者からすると「意外」の一語に尽きる。アシュカン・デジャガさえ押さえておけば、そう怖い存在ではない。これを知れたこともプラス材料と言っていい。

 最後に、柏木陽介や南野拓実ら話題性のある選手を終盤に起用した指揮官の采配には賛同しつつも、プレー時間が短いため彼らへの評価は次の機会に譲りたい。

(サッカージャーナリスト・六川亨)