経営学史上「傑作」と言われている89の理論を厳選し、その概要を分かりやすく解説した『経営理論大全』(朝日新聞出版)には、かの有名な経営学者、ピーター・ドラッカーのマネジメント理論が掲載されている。それによれば、ドラッカーはマネージャーには下記の“責任”が伴うという。

(1)組織やチームの目標を設定する
(2)目標を達成するために必要な資源を提供し、手配する
(3)部下に目標を達成しようという意欲を起こさせる
(4)部下のパフォーマンスを目標に照らしてモニター・管理する
(5)自分自身と自分の部下を絶えず成長させることによって、パフォーマンスを向上させる

 これに照らし合わせると、「スタッフが第三者のデザインを上司である自分になんの報告もなく勝手にトレースした」と主張する佐野氏の場合、特に(3)~(5)の部分が手薄になっていたと言えるだろう。

 また、同書には「目標に照らしたパフォーマンスを示し、相違がある場合はその理由を説明し、あなたが迅速に修正措置をとれる報告制度を確立しよう」ともアドバイスがつづられている。今回の事件も、部下とのコミュニケーション機会の圧倒的不足が招いたことと言えそうだ。

 これまで数々の賞を受賞し、デザイン界でもその実力を認められていた佐野氏。売れっ子デザイナーには、自身が独自の世界観を持った作品を世に生み出し続ける“芸術家”としての力と同時に、日々舞い込んでくる仕事をいかにして部下と共にこなしていくかという、“経営者”としてのマネジメントスキルが欠かせないのかもしれない。