一般的に、日本人はディベートが苦手だと言われる。実際、日本人同士のディベートを見た外国人は「なんで日本人はディベートの時にみんな黙ってしまうのか?」と疑問を抱くという。積極的な自己主張を「善」とする諸外国の人々にとって、日本人同士のディベートは、リングに上がっているにもかかわらず一向にパンチを出さないボクサー同士の戦いのように見えているのかもしれない。

 一方で、日本人の中にも「我々もディベートの能力を身につけるべきである」という議論は昔からあり、それを支持する向きも強い。たしかに、急速にグローバル化が進み、国際社会を生き抜いていくための“武器”として、ディベート技術を習得する必要性はあるだろう。

 しかし、ディベートができるようになることは我々日本人にとって「本当によいこと」なのであろうか?

 書籍『ディベートが苦手、だから日本人はすごい』(朝日新書)は、逆転の発想で日本人の“口下手”ぶりを再評価する一冊。著者の榎本博明氏は東京大学教育心理学科出身の心理学博士として数多くの著書を手掛けている人物だ。

 本書の中で榎本氏はこう語っている。

「日本人は自己主張ができない、ディベートが下手だといわれるが、それには実は深い意味がある。そこにこそ殺風景な世界を和ませ、対立を避け、平和な世界を作っていくためのヒントがあるのだ」

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