挑発的な発言しても戦争は回避してきたトランプ

 ワイドショーがまるで「珍獣」を取り上げるようにトランプ氏を紹介してきたせいで、彼はヘイトとフェイクニュースを撒き散らす「危険人物」というイメージが定着している。しかし、実は在任していた4年間、「アメリカに新しい戦争をさせていない」という動かし難い事実がある。

北朝鮮に対して壊滅的な軍事行動をする予定がある」
「もしもイランがアメリカの国民やいかなる標的でも攻撃した場合、アメリカは直ちに全面的に反撃する。不相応な形での反撃もあり得る」

  そんな攻撃的・挑発的な発言やツイートを繰り返しているので、本当に攻撃を仕掛けていると思われがちだが、実はギリギリのところでは戦争を回避して、相手を交渉のテーブルにつかせてきた実績があるのだ。

 例えば日本人にもなじみ深いのは北朝鮮との交渉だ。トランプ氏は「北朝鮮を完全に破壊する」と宣言し、金正恩氏を「小さなロケットマン」「核をもった狂人」などと好き勝手にののしった。金氏も「米国のおいぼれを必ず火で罰する」と応戦して実際に弾道ミサイルを発射するなど、緊張が一気に高まった。

 しかし、フタを開ければ、アメリカの大統領として初めて北朝鮮を訪れるという歴史的な米朝会談が実現。トランプ氏は手のひら返しで、「実に頭が良く、素晴らしい交渉者で、正しいことをしようと求めている」とベタ褒めした。退任後も金氏と連絡を取っていると語るほど関係性を構築しているようだ。

 もちろん、「政治パフォーマンス」に過ぎないという指摘もあるだろう。ただ、その一方で2019年2月のハノイの首脳会談では当時、核施設廃棄などをめぐって物別れに終わったと報道されていたが、「合意の一歩手前までいっていた」(NHK解説委員室2021年06月11日)ことがわかっている。

「実務者レベルの協議で進展がない限り金総書記と会うつもりはない」の一点張りで、北朝鮮との協議がまったく進まず、ミサイルも打たれ放題のバイデン政権と比べれば、はるかに緊張緩和に向けてかなり努力をしているという見方もできるのだ。

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トランプ時代の「第三次世界大戦危機」から「中東和平」へ