それはとてもよかったのだが、1つ、憂鬱なことがあった。尿漏れだ。実は多香子さん、1人目を出産した後から、尿が漏れるようになっていた。くしゃみをしたり、重たい荷物を持ち上げるときなどにジュッと出てしまう。下着を濡らすのは嫌だし、誰にもバレたくないので、以来ずっと尿漏れパットを使ってきた。2人目を生んだ後は、漏れる頻度も増えていた。

 尿漏れパットがあれば、日常生活は問題なく過ごせる。しかし、「夜の生活」はそうもいかなかった。性交中に漏らしてしまうことはなかったが、気になって集中できない。それに4歳年上の夫は、あまり優しい人ではなかった。行為は淡々としたものだったし、終わった後はすぐに背中を向け、いびきをかいて寝てしまう。多香子さんがどう感じているのかいないのかには全く関心を示さず、そのせいか、多香子さんは産後、一度も快感を得たことがなかった。

 そればかりではない。濡れないし、痛みさえあったので、ひたすら(早く終わってくれないかな)と念じていた。一方夫も、あまり気持ちよくなくなったのだろう。次男の誕生後は完全に、夜の生活はなくなり、冷め切った夫婦関係が修復されないまま、夫婦は離婚した。

 離婚後も、多香子さんは尿漏れパットをつけ、別段困ることもなく暮らしていたのだが、ランニングしてみると、とんでもないことが起きた。走るピッチを上げるとジュッではなく「バシャッ」と出てしまう。初日は驚いて立ち止まってしまったほどだ。「バシャッ、バシャッ、バシャッ」と立て続けに出るので、薄型のパットでは受け止めきれそうにない。その日はなんとかごまかしごまかし走って帰宅したが、以降は、たっぷりと吸収できるタイプをつけて走ることにした。

●16歳年下の恋人ができたら漏れが改善していた

 それから3年、特段困ることもなく、時は過ぎた。子どもは元気だし、仕事も職場も問題なく、多香子さんは平穏で、割と満ち足りた日々を送っていた。

 しかし、予想外のことが起きた。16歳年下の恋人ができたのだ。相手は息子たちが所属する、少年サッカーチームのコーチ。熱血タイプの誠実な好青年で、地元のサッカーチームの試合を子連れで一緒に観戦して以来、急速に仲良くなった。

(そろそろ一線を超えちゃうかも。でも困る)

 お互いの恋愛感情が深まるにつれて、多香子さんは不安になった。何より自分に自信がない。若く見える方だが、30代のころと比べたら、どうしたって肌のハリもスタイルも劣化していると思う。夫との、快感なき営みで負ったトラウマもある。そして何より、自分は尿漏れおばさんなのだ。

 絶対に打ち明けるつもりはないが、万が一ということもある。彼との年齢よりも、彼の母親との年齢の方が近い「老い」が、何かの拍子に顔を出し、彼にがっかりされるのが怖かった。

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尿漏れ予防には膣トレとリラックスが重要