●新規事業を生む発想法

(1)「ITやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の仕組みが既にあり、多くのユーザーがつながっている」という大前提がある。

 そこで、(2)-1「多くの人の自宅に使っていない部屋がある」や「多くの人が副収入を欲しがっている」。さらに、(2)-2「ホテルの宿泊費は高い」「キッチンや居間のある部屋に泊まりたい人はたくさんいるが、手頃な場所がない」ということに気付いたとしよう。

(3)故に、「ITやSNSの仕組みを使えば、低コストで部屋の貸し手と借り手をつなぐことができるだろう」と考えて、サービスの開発をするのだ。

 これは、米ベンチャー企業のAirbnb(エアー・ビー・アンド・ビー)が築いた民泊サービスで、爆発的に世の中に広がった。

 このように演繹法には、既存事業が気付いていない新しい事業を発想できる利点がある。

 周囲の納得感は必要ない。むしろ多数のコンセンサスが得られたアイデアは陳腐である、とさえ考えられている。

 たった一人の人が思い付いたアイデアでも、ロジックが正しく本人が信じるものであれば検討の価値がある。演繹法は個人中心といえ、イノベーションで攻める側にとっては有利な発想法なのだ。

 逆に演繹法の欠点とは、最初の仮説や前提に誤りがあり、思い込みがあると結論を間違えることで、そのリスクが高い。

 既存企業が演繹法的発想をできないのも、多くの人員や予算を持っている組織が「仮説が間違っていたので失敗しました。やり直します」とは、簡単には言えないことがあるからだ。

 では、リスクの高い演繹法の発想でイノベーションを起こすのは誰なのか。それがベンチャー企業なのである。

 演繹法では、順序立てて仮定していくので、一つでも理論が破綻したら、その先に進めない。時間をかけて検証を繰り返すことになる。だから、ベンチャー企業は小さく始めて、できるだけ早い段階で市場のフィードバックを得るように工夫している。

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失敗を早く認めて次に進む演繹法的アプローチ