●「失敗を認める」理由

“Minimum Viable Product”(ミニマム・バイアブル・プロダクト:MVP)という言葉がある。意味のあるフィードバックが得られるのに最低限必要な製品要素だけに集中して開発することで、なるべく早い段階で市場投入し仮説を検証するのだ。

 早い段階であれば、修正も容易でコストも低い。場合によっては、完全に新製品や新事業のアイデアを諦めることもある。だから演繹法的アプローチでは、失敗を早く認めて次に進むことができるのだ。

 シリコンバレーは「失敗を認める社会」といわれる。だが、この考えは高邁な弱者救済という社会規範から生まれたものではなく、あくまで演繹法的アプローチで成功するための実利的な帰結なのである。

 このように、既存企業の帰納法的発想とベンチャー企業の演繹法的発想は水と油ほどに違う。問題は、既存企業が帰納法的発想しか知らないために、全てを自分の論理で判断してしまうことなのだ。

 既存企業の経営トップ、経営幹部がいきなり演繹法的発想をするのは居心地が悪いかもしれない。だが、少なくとも演繹法的発想の存在を認め、それがどんなものかを肌感覚で理解することが大切だ。

 そうすれば、社内に演繹法的なアプローチで新事業を検討する“特区”を作ることも可能となる。

 ベンチャー企業は、演繹法的発想により大きな成功が期待できる一方、失敗の確率も高い。優勝劣敗となるので、多産多死が可能な「生態系」が必要となる。次回、その仕組みに迫ろう。

※「週刊ダイヤモンド」2017年11月4日号からの転載です。