●見に来た人を いかに楽しませるか

 筆者は2000年代、東京モーターショー事務局のインナースタッフとして、公式リリースである東京モーターショーニュースの発行に関わっていたことから、毎回会期中はずっと会場周辺に寝泊まりし、毎日ショーを見て回っていた。

 10年ひと昔とよく言われるが、2007年までのショーは展示、アトラクションとも充実しており、来場すればクルマのテーマパーク的に1日遊べるようなショー作りが辛うじてできていた。

 バブル期の熱狂を別にすれば、最も盛り上がったのは2005年であろう。今のようには先端技術頼みではなかったが、欧米からも今度は東京モーターショーで何を見られるのかと、大勢のジャーナリストが詰めかけていた。

 今回のプレスセンターの様子を見ると、少なくとも、欧米から取材に訪れる記者の姿は激減し、ほとんど見かけなかった。中国メディアの取材も以前とは比較にならないほど減った。

 その中で増えたという実感があったのは、ASEAN諸国からの来訪者だった。しかも、東京モーターショーに関するイメージも悪くない。アジアンモーターショーでは出品モデルの大半が新興国向けの低価格ラインであるのに対し、日本では先進国向けの商品を多数見られることと、日本車が頑張れば一般人にも手が届くという存在であることから、イメージが良いということもあるだろう。

 このASEANからのインバウンドが、今回の東京モーターショーを見た中で唯一のプラス材料だったと言っていい。

 新技術、新潮流が続々と生まれる自動車業界。その中で「日本は最先端ですよ」ということを誇示することにのみ目が行き、お金を払ってクルマを見に来た入場者を楽しませるという本来のミッションを完全に見失った観のある東京モーターショー。

 今回、入場者が何人集まるかはわからないが、次回はちょっとでもお金を使わないようにといった自己都合は捨てて、「見に来た人たちを心から楽しませるために、自分たちは何をやれるか」という原点に立ち返って、東京モーターショーを再興させてほしい。

 少なくとも、「クルマを見る楽しさ」という一点においてすら、世界のビジネス系モーターショーに負けているエンタテインメントショーというのでは、話にならない。