<ライブレポート>和楽器バンド、生演奏で昇華したボカロソングを余すことなく披露
<ライブレポート>和楽器バンド、生演奏で昇華したボカロソングを余すことなく披露

 今年メジャーデビュー8周年を迎えた和楽器バンドが9月14日、全国23公演を巡るツアー【和楽器バンド ボカロ三昧2 大演奏会】のうちの6公演目となるライブを開催した。

 本ツアーは、2014年4月にボーカロイド・カバーアルバム『ボカロ三昧』でメジャーデビューした和楽器バンドが、今年8月17日にリリースした『ボカロ三昧2』のリリースを記念したものだ。この日のステージは、2023年7月2日に閉館が決まっている中野サンプラザで開催された。「私の人生を変えてくれた詩吟のコンクールの全国大会が行われたのが、この会場だったんですよ。なくなっちゃうのは、本当に寂しいですけれども、今日はステージをしっかりと噛みしめながらやっていきたいと思っています」と、鈴華ゆう子(Vo.)にとっても、何度もこの会場でライブをしたバンドにとっても特別な想いがあふれる場所である。

 暗転したステージにメンバー8人がスタンバイ。ステージセットに設置された、いぶくろ聖志の箏や黒流の和太鼓といった豪華絢爛な和楽器そのものが装飾物となり、ステージをみやびやかに彩っている。狐面で顔を隠した鈴華。鈴華の流麗な歌声は、瞬時に客席の心を惹きつけるポテンシャルを秘めていた。

 ツミキの「フォニイ」では、和楽器隊、洋楽器隊のそれぞれが自らの奏でるサウンドにひたすらに集中しており、個性を放つ動作が明確で、かつ緩急のある緻密な音色を紡いでいた。原曲にはない尺八の音色が自由に蠢く様は、扉を開けた一歩先へとこのバンドをさらに連れていくかのようで、まさにこのバンドの重要な指針を担っているように思う。8人がひとつのステージに立っていると、ステージが狭く見える。しかし、その分緻密な音色がステージへといっぱいに詰め込まれていく。まるで、音で満たされた空間に心が洗われていくそんな感覚だ。鈴華の毅然としたボーカルから気付けば意識は和楽器、洋楽器の奏でる個々の音色へと移り変わっていった。

 すりぃの「エゴロック」からは、鈴華の弾む歌声に合わせて、和楽器、洋楽器隊の一挙一動も解放的になり、狭い範囲で充満していた音色がステージをようやくはみ出して、限界を突破する光景が広がっていく。蜷川べにによる津軽三味線と山葵による絶え間ないドラムの音色が雨のように降るなかで、サビ手前の鈴華の熱のこもったがなりと軽快なステップに似たリズミカルなサビでの歌声が調和する。

 「今日は目で見て楽しむ、そんな日にしていただければと思います」と意気込みを語る鈴華。和楽器バンドのカラーが浮かび上がったのは、鈴華による1、2のポップな合図から始まったChinozoの「グッバイ宣言」。和の要素が一切ないこの原曲に、麗しい和のオーラを秘めた歌声が先行していくことで、和楽器バンドがこの曲をカバーすることで叶う意義が生まれる。神永大輔(尺八)や亜沙(B.)、町屋(G. / Vo.)がステージ前方の左右、中央に置かれているお立ち台に立ち、客席へと飛び乗るように臨場感のある生々しい演奏をプレイ。ますます立体的になるステージにペンライトを必死に振る客席も前のめり。鈴華も2階の客席に目を向けていく。

 164の「天ノ弱」が始まるや否や、客席から見て鈴華の右隣に立つ町屋がくるくるとその場を回転。続くように尺八を持つ神永大輔もうねりながら動きをつけていっては、亜紗もビートに合わせてヘッドバンキングする。躍動感のあるステージだ。実際に披露された「天ノ弱」は、メンバーのパフォーマンスによって、『ボカロ三昧2』を通して想像していた「天ノ弱」より活発な印象を伴う1曲へと昇華されていた。そこで確信したのは、音源のみならず、目の前に現れる生のパフォーマンスが和楽器バンドの作品の完成には不可欠であること。音を奏でる一人ひとりに十分な価値が見いだされているのが和楽器バンドのライブだ。聴こえるサウンドから見える光景までのすべてに配慮した8人による楽曲ごとのメリハリのあるパフォーマンスに感心するばかりだ。

 みきとPの「いーあるふぁんくらぶ」、スマホでの撮影を許可したDECO*27の「キメラ」では、ロック要素が含まれる重厚感のあるフレーズでヘッドバンキングをするなど凄まじい演出を繰り広げることで原曲に対するリスペクトを体現していたのが印象的だった。ドラムセットの前に座る山葵が突然中国語を口にして始まった「いーあるふぁんくらぶ」。メンバーが大胆に個々の立ち位置を転換していくなかで光る神永の軽快なスキップ。曲間で再び入る山葵の中国語。自由闊達なパフォーマンスと和で固められたステージセットとが相まって一層ステージが規模を拡大し、テーマパークと化した。『ボカロ三昧2』は十分聴きごたえがある作品だが、生のライブでは彼らの一挙一動から個々のサウンドが障壁をどんどん取っ払っていく美しさがある。演奏に真正面から向き合い、自らの意志で客席を心から楽しませようとする和楽器バンドに存在しているのは自由。だからこそ、特段飾りがなくても戦える潔さがある。

「アルバムをリリースしたばかりで、最近は『ミュージックステーション』だったり、『MUSIC FAIR』だったり、テレビにも出演させていただいて、みんなの前に出る機会も増えました。みんながこうして待っていてくれるからこそ、音楽で生きていられるんだなと思います。和楽器バンドは、このツアーでもパワーアップをしていきたいと思っています!」(鈴華)

 【和楽器バンド ボカロ三昧2 大演奏会】は11月25日の宮城・トークネットホール仙台公演まで続く。現在、ツアーの真っ最中ということもあり、今回披露されたすべての楽曲について詳しく綴ることはできないが、この記事に触れた楽曲以外もすべてが、あまりにも素晴らしかったことを最後に記しておきたい。ライブが終わってから自然とポジティブな未来を心に思い描くことができたのは、和楽器バンドが8年間試行錯誤を繰り返すなかで生まれた自由な今がそこにあってのことだろう。和楽器バンドを好きでいるならすでに果報者。そして、その輪がさらに大きな広がりを見せていってほしいと心から願う。この複雑な時代に、純粋に素敵なバンドが存在してくれてよかった。最後はそう安堵して幸福感に満ちた中野サンプラザを離れた。

Text by 小町碧音
Photos by 上溝恭香