――カメラ遍歴は?
初めて買ったカメラは10年ぐらい前のオリンパスペンFです。それまで全く興味がなかったんですが、もう一つの趣味である自転車の雑誌を眺めていたら、「自転車で撮影旅行に行こう」みたいな小さな特集記事があって、そこで取り上げられていたんです。ハーフサイズという機構にバチッときて……ぼくは機械のギミック(仕組み)に弱いんですよ。自転車もまともなオフロードバイクじゃなくて折りたたみ式が好きだったりするんです。それで雑誌を見た翌日、新宿での生放送を終えた帰りに中古カメラ屋さんに寄って現物を見て、2日後には買っていました(笑)。それから始まって今までにフィルムカメラばかり50台は買っていると思います。ついこの間も2台目の防湿庫を買ったばかりですし(笑)。
ぼくは一時期いろんな趣味に手を出して、キャンドル作りに熱中したり蓄音機にはまったこともあるんですが、どれもあきてやめていって、最後に残ったのは写真、カメラと自転車ですね。このふたつは一生付き合っていくんだろうなあ。
――どうしてカメラに夢中になったのでしょうか?
広がりがあるからだと思います。最初はカメラ自体のメカから入っていって、しだいに写真を撮ることに興味が広がっていく。このオリンパスペンSはモノクロ専用なのでイエローフィルターをかましてあるんですが、この純正フィルターを中古屋さんで見つけたときの高揚感たるや、もう(笑)。これをつけてプリントを焼いてみたら仕上がりが今までと違うんですよ。そこに新しい喜びがありました。写真やカメラって、いろんところに喜びがあるのが、ぼくが続いている理由なのかな。
フィルムは今もうモノクロのみです。きっかけはリンホフを手に入れたことでした。いや、最初はそんな高いカメラを買うつもりはなかったんですよ。でもNHKのドイツ語講座に出て「ドイツつながりで……」って、勝手な理屈をつけてですね、買ってしまったんですよ(笑)。試し撮りをポジ、ネガカラー、モノクロですると、ほんっとにモノクロの写真が素晴らしかった。「うわーっ」となって、撮影の本当の楽しさがわかりました。もちろん、現像からプリントまで自分でやっています。最初はお風呂場暗室だったんですが、さすがに引伸機が大きくなってきて家族からクレームが出たので、近所に小さなアパートを暗室用として借りています。もう毎日まっ暗ですよ、その部屋(笑)。一日こもると30枚から40枚は焼いてますね。
――フィルムでもとくにクラシックカメラが好きなんですね。
体内露出計も体内距離計も鍛えられますから(笑)。スーパーセミイコンタⅡもブローニーが使えていちばん軽いカメラを探していたら、これにたどり着いたので衝撃的でした。なにしろ500グラムちょいですからね。古いカメラですが、露出がぴたりはまるとシャープなんですよ。またプリントすると写真の像とパトローネの数字がかぶっているのがわかるんですが、それも味わいとして楽しい。
今メーンで使っているマキナW67は、6×7の画角に興味があって購入しました。4×5並みの画質が得られて持ち歩ける。それから6×7が好きになり、マミヤRB67やペンタックス67も手に入れました。デジタルカメラも素晴らしいとは思うんですが、ぼくにとっては油絵と水墨画くらいの違いを感じます。水墨画を描いている人にとって油絵はもう別物でしょう? 自分で撮影したものを自分で現像して、自分で紙に焼いてここにある、という感覚が好きなんです。デジカメの画像をパソコンで処理するのも面白いんでしょうが、ぼくには別世界の話なんですよ。とくに去年から「石井思惟(いしい・しい)」というフォトネームを使って作品を発表しだしてから、写真に対する取り組みがより真摯になってきました。今は毎日、カメラを持ち歩いています。仕事に遅刻していても、カメラを忘れたら家に取りに帰る人ですから(笑)。
※このインタビューは「アサヒカメラ 2010年3月号」に掲載されたものです