棚田越しに北アルプスを一望できる白馬の青鬼集落。写真愛好家が押し寄せて問題となったが、その後、地元の農家が農地を撮影スポットとして開放し、地元の人と撮影愛好家のお互いが良好な状態を保つべく模索しているところに、菊池哲夫さんは希望を感じている(写真/菊池哲夫さん)
棚田越しに北アルプスを一望できる白馬の青鬼集落。写真愛好家が押し寄せて問題となったが、その後、地元の農家が農地を撮影スポットとして開放し、地元の人と撮影愛好家のお互いが良好な状態を保つべく模索しているところに、菊池哲夫さんは希望を感じている(写真/菊池哲夫さん)
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 写真愛好家の撮影マナーが問われている。人物が被写体なら肖像権などを盾に撮影を拒むこともできるが、抗弁もせず、黙々と撮影愛好家を受け入れ、自分の身を汚し、時に命を絶つのが自然界の生き物である。アサヒカメラ特別編集『写真好きのための法律&マナー』では、自然写真の撮影について特集。山岳フォトグラファーの菊池哲男さんは、撮影地でのトラブル増は認識しているものの、「マナー違反をことさらにたたくことにも違和感を覚える」という。その真意とは。

*  *  *

「僕、山中湖で『お前が富士山を撮るなんて100年早いわ』って怒鳴られたことがあるんです」

 20代から山岳写真家として活躍し、「山と溪谷」や「岳人」といった専門誌の誌面を飾ってきた菊池哲男さんは、「富士山はトラウマ」と笑う。

「写真ツアーで山中湖に行った際、生徒が湖畔に立ててあった三脚にぶつかったんです。とっさにその三脚を持ち上げたら、持ち主に『俺が一生懸命決めた構図を動かした』と怒られたときのことです。富士山の撮影がいちばん怖いんじゃないですか」

 数々の山を撮り続け、作品を発表してきた菊池さんだが、ジレンマを感じることもある。

「その場所を紹介することになるので、それがきっかけで人が集まり、地元の観光に少しでも貢献できればいいと思っています。その一方で自然が破壊されたり、そこに暮らす人の迷惑になったりするリスクもあるので、地元の人のためになるかどうかを考えてしまいますね」

 菊池さん自身、デジタルカメラの普及や、団塊世代の写真愛好家の急増で、撮影地に人が集中し、トラブルが多発していることは承知しているが、ジレンマも感じている。

「人が増えればいろんなトラブルが起こります。でも、わざわざ遠くから車で来て、駐車場がいっぱいだったらあきらめて帰りますか? どこかに車を止めて写真を撮りたいと思いませんか? 花が満開のときは人が集中するから『二分咲きのよさもあるから、そこを狙おう』と言われても、やっぱり満開の瞬間を見たいと思いますよね。そうした“人間の性”を全否定するのは難しいと思うんです」

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