報道の直後、菅義偉官房長官は、朝日新聞が報じた一連の文書を「怪文書」と呼んだが、その後も取材を蓄積し、確認が取れた文書の存在や前川喜平・前文部科学事務次官の証言などを次々に報じた。前川氏は単独取材に対し、「文書はいずれも獣医学部新設について、担当の専門教育課の職員から、自分が説明を受けた際に示された」と証言した。菅長官はほどなく「怪文書」と言わなくなった。
このほか、獣医学部新設の手続きが進んでいた当時に事務次官だった前川氏は、首相補佐官から「首相は自分の口からは言えないから、自分が言う」と言われ、学部新設を進めるよう求められた、とも明らかにした。
獣医学部新設をめぐる文書が明らかになったのは、文科省だけではない。当時の柳瀬唯夫首相秘書官が、愛媛県や今治市、加計学園の関係者と面会し、その際に獣医学部新設についてアドバイスをしていた、という情報を入手した。取材班はさまざまな取材から、この情報がほぼ間違いないと確信したが、やはり、このときの記録が存在するはずだと、さらに数カ月かけて取材を続けた。
その結果、柳瀬氏が面会の中で、獣医学部新設について「本件は、首相案件」と述べていたなどという内容が記録された愛媛県の記録文書を入手。1面トップで報じた。直後、中村時広県知事も記者会見で、県職員が作成した備忘録だと認めたが、柳瀬氏は面会の中でこうした言葉を使ったことは否定した。
獣医学部新設に関して、首相官邸側が関与したのではないかとうかがわせる数々の文書や証言が明らかになった。安倍晋三首相や名前の上がった首相側近の官僚たちは、文書や証言の内容を強く否定する一方で、「記録がない」「記憶がない」という答弁を繰り返している。
この問題は、一学校法人の学部新設の是非だけにはとどまらない。私たちの取材は、党内に強力な対抗勢力がなく、野党も分裂する「1強」政権のもと、行政の透明性や公正性は確保されているのかを「加計問題」を通じて検証しようとしたものだ。一連の問題では、厳正に扱われるべき公文書が、極めてずさんに、恣意的に扱われている実態も明らかになった。獣医学部新設だけでなく、その背景にある構造的な問題まで含め、幅広く、深く、さまざまな角度から、今後も報じていきたい。(朝日新聞文化くらし報道部生活担当部長・西山公隆)