加計学園報道の中心になった水澤と氏岡が、この問題を追いかけ始めたのは2017年に入ってすぐのころだった。文部科学省の違法な「天下り」問題を取材する中、氏岡が取材相手の1人から「獣医学部の新設問題で、首相官邸、政治家、大学側の関係がおかしいんですよ」という話を聞き込んできた。しかし、その時点で、私も氏岡も「どんな話なんでしょうね」という程度の認識だった。だが、偶然にも、水澤が安倍政権に近い立場にある別の取材先から、獣医学部新設が「あとあと、問題になるかもしれない」という話を耳にした。
まったく違う2人の取材先が、そろって獣医学部新設を問題視している……。獣医学部をめぐり、政・官・業をめぐる「何か」があるのかもしれない。本格的な取材が始まった。
この過程で、関係者への取材を通じ、加計学園が国家戦略特区の制度を使って愛媛県今治市に獣医学部を新設しようとしたことに対し、内閣府がさまざまな形で、大学設置を担当する文科省に強く働きかけていたという構図が浮かんできた。安倍晋三首相と学園理事長の加計孝太郎氏は「腹心の友」(首相)という関係にある。加計学園という一学校法人に首相官邸側が強い関心を示していたといった証言が多数得られた。
その一方で、官庁取材の経験がある氏岡や私は、学部新設に関係した官僚がこうした経緯を文書に記録として残しているはずだと考えていた。一つひとつの証言は詳細で、重く、具体的なものだったが、それらを裏付ける記録がないか、重ねて、関係者をしつこく訪ねて回る日が続いた。
そうするうち、決定的な文書がもたらされた。そのうちの1枚には、獣医学部新設について「総理のご意向と聞いている」「官邸の最高レベルが言っている」という文言があった。加えて、この文書が本物なのかどうか、貸し会議室で、カラオケボックスで、秘密裏に関係者に当たりながら確認する取材を進めた。そして文書が間違いなく、文科省が作ったものだという確認が取れた。そして、冒頭のスクープの報道に踏み切ったのだった。
一連の報道は、水澤、氏岡の2人が「これは何かおかしいのではないか」と感じた心のひっかかりを大事にし、何より、独自の取材をあきらめずに続けたことで結実したといえる。