朝日新聞取材班が一連の疑惑の「中間報告」として、『権力の「背信」――「森友・加計学園問題」スクープの現場』(朝日新聞出版)を出版した。
加計学園の獣医学部新設をめぐって、政治・行政の手続きは公平・公正に行われたのか。朝日新聞東京社会部デスクとして一連の取材に携わってきた西山公隆(現・文化くらし報道部生活担当部長)が、その経緯を振り返るとともに、問題点を寄稿した。
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「裏は完全に取れています」
2017年5月16日深夜、社会部記者の水澤健一は、取材先から社会部朝刊担当デスクの私にかけた電話でこう言った。
ある「スクープ」についてだった。「もはや、大都市部に届く最終版にしか記事が入らない時間だ。もう1日待てば、早版から最終版まで記事を載せることができ、全ての読者に同じ日の紙面でこのスクープを届けることができる」とも考えたが、水澤の一言で腹は決まった。何より、ニュースはきちんと裏が取れれば、一刻も早く報じるのが基本だ。
「わかった」。電話を切ると、東京編集センターデスクの石嶋俊郎に向かって、大声で怒鳴った。
「さっきの話、いきます」
記者が書いた記事に見出しを付け、紙面の形に組み上げていく責任者の石嶋には、原稿のことは前もって話してあった。予定稿を一読し、「これ、1面アタマやん」とつぶやいていた石嶋は、急きょ紙面を差し替えるべく、若い編集者に大声で指示を飛ばした。
こうして、プリンターからはき出された朝刊1面のゲラ刷りには、特に大きなニュースであることを示す「横カット」で、「新学部『総理の意向』」という見出しがつき、「加計学園計画 文科省に記録文書 内閣府、早期対応求める」と続いた。その後、永田町、霞が関を長らく揺るがし続けた学校法人「加計学園」の獣医学部新設をめぐる、最初の特ダネだった。
水澤とともに、この取材をしていた教育問題担当の編集委員・氏岡真弓は、ゲラを読みながら「あしたから騒ぎになるのでしょうね」とつぶやいた。
「ああ、間違いないですね」。私はそう返した。