もちろん、名寄せ(重複したものをまとめる作業)と共起語や文脈は別問題だと言うこともできるだろう。しかし、Googleで『一戸建て』と『一戸建』の検索結果に表示されるWebサイトの数に約55倍もの差があった2014年、Google翻訳の精度は現在よりも圧倒的に低い状態であったにもかかわらず、SEO業界では文脈と共起語はすでに当たり前の技術とされていたそうだ。
「これは表記の違いにとどまらず、たとえば『デジタル一眼』『デジタル一眼レフ』『デジタル一眼レフカメラ』など、まったく同じ意味のキーワードを検索した検索結果でも同様です。一方で、2018年7月現在、Googleにおける月間の検索件数(その語句が検索される回数)が『一戸建て』が1万4800件、『一戸建』が390件と38倍も異なるので、どちらの検索結果に表示されるかでSEO対策の成果は大きく変わってしまいます」
検索エンジンが文脈や共起語を把握できたとしても、表記や語句がちょっと違うだけでこれだけ検索結果が異なるのであれば、どうやってより検索件数の多いキーワードに対策すればよいのだろうか。
「少し前までSEO対策で主流となっていた外部リンクを利用した方法では、リンクを張るテキストを利用することでキーワードを指定できましたが、外部リンクの効果は低下しており、現在はコンテンツ自体が重視されています。そのような中で、1ページ1ページでキーワードを狙わなければ成果が望めない中小規模サイトでは、コンテンツの中で文脈や共起語を利用してキーワードを指定するのは非常に困難です」
数百万ページを超える大規模サイトなら、数千~数万のキーワードに対策しても、数百・数千ページの力を合わせて1つのキーワードを狙うことができるので、それぞれのページで明確なキーワードを指定できない方法でも効果を出せるだろう。しかし、文脈や共起語を利用して1つ1つのコンテンツでキーワードを指定するのは非常に困難だというのが鈴木さんの見解だ。
●根拠と方法論のないサービスの横行
それでは現在のWebサイトの大半を占める中小規模サイトにおいて、より検索件数の多いキーワードを指定し対策する具体的な方法論は存在しないのだろうか。
「私は、2015年に出版した書籍から一貫して、コンテンツ内で対策するキーワードを一定回数以上利用する、キーワード出現率に基づく方法論を推奨してきました。この方法は、裏ワザが横行していた時代からあり、一時は悪用されたこともある方法ではありますが、対策するキーワードを何%の出現率にするかを決めて文章を調整していけばよいだけなので、専門知識がない人でも実行しやすい方法です。また、キーワードの出現率を高めることで文章がおかしくなっていれば別ですが、文章が十分わかり、利用者が求める情報が提供されているのならば、共起語がちりばめられていようと特定のキーワードが繰り返されていようと、利用者にとっての価値は変わらないので、文脈や共起語がしっかり把握できる状態になったとしても、この方法がマイナスになる可能性はないでしょう」
もちろん、常に検索エンジンが把握できている共起語を確認し続け、確認できた共起語だけを利用して対策するキーワードごとに最適な出現率を出していけば、最も高い効果が期待できるかもしれない。しかし、このような手法が資金力やパワーのない中小規模サイトで実現できるかといわれれば、現実的に難しい。
「文脈や共起語を利用した方法論がない中で、私は、ネットでの書籍の批評をはじめ、さまざまな場所でこのキーワード出現率を利用した手法に関する批判を受けました。ただ、その批判の根拠は『情報が古い』『○○はそう言っていない』というものばかりで、キーワード出現率の効果がないデータや、文脈や共起語に効果があるデータを根拠にしたものはありません。もちろん、専門知識がない人が作成した自然な文章を評価することは、検索エンジンの価値を高めるためには必須のことであり、時とともに共起語や文脈の効果は日本でも高まっていくでしょう。しかし、少し検索エンジンで検索してみるだけでも疑問が生じるような事象ですら、『新しい』や『権威のある人が言っている』というだけで検証や議論が行われないことは、非常に危険なことだと思っています。また、効果を出す方法論がなくても、『当たり前になっているから』『売りやすいから』とそのままサービスに利用する業者が後を断たないことは、多くのサービス利用者を欺き、その可能性を摘んでしまう看過できない問題です」