1994年の創刊から一貫して、偏差値だけにとらわれない大学の真価を伝えてきた「大学ランキング」。最新版では全国770の大学を対象に教育や研究、入試など86項目を調査、各順位を掲載している。今回、大学図書館ランキング(総合部門)で初の1位になったのが奈良大学だ。その理由を探るために図書館を訪問してみた。
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近鉄・京都線の高の原駅は、奈良市北西部に位置し関西文化学術研究都市の入り口にあたる。バスに5分ほど揺られると、奈良大のブルーの看板が見えてきた。校内に入り、なだらかな丘陵地帯に立つ校舎を結ぶ外回廊を進んだ先に図書館がある。見晴らしがよく緑を揺らす風も心地よい。開放的なエントランスには大きな一対の仁王像が展示されていて、このあたりが古都であったことを再認識させられる。
「世界最古の印刷物と言われる『百万塔陀羅尼経』やアダム・スミスの『国富論』初版本、ダーウィンの『種の起源』初版本などの貴重な図書を所蔵しています」とショーケースに入った実物を案内してくれたのは、図書館長を兼務する関根俊一副学長。まるで博物館のような蔵書の数々に期待が高まる。
奈良大は69年に開学、来年50周年を迎える比較的新しい私立大学だ。文学部と社会学部があり学生数は2201人で小規模校に区分される。キャンパス周辺には世界遺産や国宝級の神社や寺院、古墳などの遺跡が多数点在する。
こうしたロケーションを生かして、全学部・学科で実践的なプログラム「フィールド・アクティビティ」と称した独自の研究・教育を展開している。スローガンは「本物に触れ、社会とかかわりながら、問題を解決する力を身につける」で、体験型学習に重点を置いていることがうかがえる。
なかでも79年に日本で最初に創設された文化財学科は、平城京跡や古墳などを実際に訪れて遺跡発掘の方法や測量技術を学ぶ。考古学コース、史料学コース、美術史学コース、保存科学コースの4コースに分かれ、文化財防災・レスキュー、文化財マネジメント、世界遺産学、博物館学などの実践的な学びを身につける。こうした専門性の高い取り組みが、図書館ランキングの1位にも関係したのか。
「ランキングの受け入れ指数が最高値になっているのは、日本考古学協会が保有していた約6万3千冊もの発掘調査報告書などを2014年から数年かけて寄贈してもらったからです。膨大な量でしたが、新しい書架も整えて順次一般公開しています」(関根副学長)
発掘調査報告書とは、遺構や遺物などの情報を図面や写真などにまとめた資料のこと。例えばマンションの建設予定地から土器などが出土した場合、文化財保護法にのっとって工事をいったんストップして専門家が調査することになる。報告書の刊行をもって調査終了=工事再開となるため、非常に重要な意味合いを持つ。
文化財学科のある奈良大の図書館は、当初から西日本の専門書が多数所蔵されていた。だが、この寄贈によって全国津々浦々で行われた発掘調査の資料も集まり、それによって約55万冊の蔵書のうち考古学の専門書が約15万冊と大きな比重を占めることになった。それにしても、なぜこれだけ貴重な資料が同大学だけに集まったのだろう。
「文化財に関する専門職員や学芸員は全国の自治体にいて、恐らく10人に1人はうちの卒業生だと思います。発掘調査報告書は非売品なので、集めようとすると一苦労。本学には卒業生を通じて集まってくる必然性もありましたし、資料を必要とする学生のニーズもあった。それが一括寄贈先に選ばれた大きな理由だと思います」(関根副学長)
6割程度が県外出身者で、下宿しながらアルバイトで遺跡の発掘調査などに励む学生も少なくないという。学内外で常に本物の研究対象に触れながら将来のスペシャリストをめざす。その学びに図書館の膨大な資料が大いに役立っているようだ。
「ランキングトップの背景には寄贈があったためで、今回だけ」と関根副学長は謙遜するが、これからも日本を代表する考古学の知の集積地であることには変わりない。
奈良大図書館では一般公開に加えて、8月7日から9月20日までを高校生のための自習開放期間とする。文化財の専門書を通じて、悠久の歴史に触れられるチャンスだ。
(文/杉澤誠記・アエラムック教育編集部)
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