巨人時代の長嶋茂雄 (c)朝日新聞社
巨人時代の長嶋茂雄 (c)朝日新聞社

 2018年シーズンも折り返しに近づき、早くも後半戦の展開に思いを巡らせる今日この頃だが、懐かしいプロ野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「プロ野球B級ニュース事件簿」シリーズ(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、現役時代に数々の伝説を残したプロ野球OBにまつわる “B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「うっかり!でもそれが魅力です! 長嶋茂雄編」だ。

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 1958年、巨人入団1年目の長嶋茂雄は、打率3割5厘、29本塁打、92打点、37盗塁を記録し、新人王、本塁打王、打点王に輝いたが、惜しむらくは、ホームランが30本の大台に1本足りなかったこと。もし30本塁打だったら、史上4人目、ルーキーでは史上初のトリプルスリーにも手が届いていたのだ。

 実をいうと同年、長嶋はベース踏み忘れで本塁打を1本取り消されており、このうっかりミスさえなければ、ちょうど30本になり、トリプルスリーは達成できていたのである。

 痛恨のベース踏み忘れ事件が起きたのは、9月19日の広島戦(後楽園)だった。

 1対1の5回2死、長嶋はカウント1-2から鵜狩好応の真ん中に入る絶好球を左中間スタンドに勝ち越しの28号ソロ。歓喜の表情でダイヤモンドを1周したが、直後、鵜狩からボールを受け取ったファースト・藤井弘が一塁ベースにタッチし、竹元勝雄一塁塁審に「長嶋は一塁ベースを踏んでいない」とアピールした。

 竹元球審も「長嶋君はベースの手前約10センチのところを右足でターンして、完全に塁をまたいだ」と踏み忘れを認め、野球規則7.02「走者は進塁するにあたり、一塁、二塁、三塁、本塁の順序に従って、各塁に触れなければならない。これを犯すとアピールプレーによりアウトとなる」に則り、アウトを宣告した。

 この結果、長嶋の本塁打と巨人の勝ち越し点は取り消され、試合も2対4で負け。まさに明暗を分けた10センチだった。

 長嶋は2年後の60年にも打率3割3分4厘、31盗塁を記録し、首位打者を獲得したが、同年は16本塁打に終わり、またしてもトリプルスリーならず。17年間の現役生活を通じてトリプルスリーは1度も達成できなかった。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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伝説の“三角ベース走塁”