例えばプロ並みに料理上手な妻が、シンプルなハンバーグばかり食べたがる夫に、

「あなたの食の好み、間違っているわよ」

なんて言ったら、単なる趣味嗜好の違いを、善悪の問題に作り替えていますよね?

 私は、夫婦が一緒にやっていきたいなら、「それぞれが、相手と仲良くやっていきたいから、精いっぱいの善意で自分なりに努力している」という前提から始めるのが適切だと考えています。実際、よくよく話をお聞きすれば、ほとんどのケースがそうです。

 善意でやっていても、自分と相手は好みが違い、常識も違いますから、必ずしもうまくいくとは限りません。だから調整が必要になります。その調整をするときに、自分とうまくやっていくために相手なりに頑張っているんだ、と思えていれば、相手のやっていることを「悪い」とは当然なりませんし、批判的な気持ちにもなりません。

「悪い」のではなくて、自分には「嫌」なことで、それは結局2人の関わり方が「うまくいっていない」という認識を持つということです。「悪い」も「嫌」も「うまくいっていない」も同じじゃないか、と思う方がいらしたら、頭が固くなっています。要注意です。

 うまくいっていないのなら、頭を柔らかくして自分も相手も「いい感じ」でいられるやり方を冷静に考えて、シンプルに直せばいいことです。理恵さんと正義さんのような思いでいると、煮えたぎる思いが邪魔しますから、冷静に考えることも、考えたことをシンプルに実行してみることもできなくなってしまいます。邪魔する感情がなければ比較的簡単に直せるはずです。

 まずは、「善悪」「正しい、間違っている」という軸で考えるのをやめるのが、一つの糸口です。(文/西澤寿樹)

※エピソードは、事実をもとに再構成してあります

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西澤寿樹

西澤寿樹

西澤寿樹(にしざわ・としき)/1964年、長野県生まれ。臨床心理士、カウンセラー。女性と夫婦のためのカウンセリングルーム「@はあと・くりにっく」(東京・渋谷)で多くのカップルから相談を受ける。経営者、医療関係者、アーティスト等のクライアントを多く抱える。 慶應義塾大学経営管理研究科修士課程修了、青山学院大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得退学。戦略コンサルティング会社、証券会社勤務を経て現職

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