下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)
下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)
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深夜でも早朝でも、この空港は人で埋まっている
深夜でも早朝でも、この空港は人で埋まっている

 さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第52回はバングラデシュ・ダッカのシャージャラル国際空港から。

【深夜でも早朝でも、人で埋まっているシャージャラル国際空港はこちら】

*  *  *

 世界には鍛えられる空港というものがある。僕の場合は、バングラデシュのダッカ、シャージャラル国際空港である。

 到着階は1階。そこにはかなりの数の人がうごめいている。出迎え客はターミナルのなかに入ることができるから、ここにいるのは、タクシードライバーと目的もなしに集まってきた人たちだ。空港を出て、タクシーに乗るということは、この人混みのなかに放り込まれることである。

 オオカミの群れに入る羊のようなものなのだ。僕はここから、市内のバスターミナルに向かうことが多かった。バスはないので、タクシードライバーと交渉するしかない。

 数十人のドライバーに囲まれる。バスターミナルの名前を告げる。ドライバーのリーダー格の男が、「500タカ」と居丈高な顔つきで切り出す。いまのレートで650円ぐらいだろうか。

 そこから勝負がはじまる。

 僕はそこで、「500タカ」と復唱する。高いとも、もっと値引いて、ともいわない。ただ黙っている。復唱した目的は、500タカという金額を理解している……とドライバーに伝えるためだ。

 そこから不思議な沈黙が生まれる。ドライバーたちが、僕の腹を探りはじめるわけだ。そこでも僕は黙っている。しかし交渉の輪からは離れない。

 ただ黙っている。

 するとひとりのドライバーが声をあげる。「450タカで行く」

 形勢はこちらに傾きはじめた。しかしここが踏ん張りどころ。つい口を開きたくなるが、それでも僕は黙っている。

 はじめに500タカといわれたとき、現地の人なら200タカから250タカだろうな、という想像はつく。彼らはだいたい倍の金額を吹っかけてくることが多いからだ。しかし現地人価格で僕はタクシーに乗ることができないこともわかっている。外国人だからだ。300タカなら手を打っていいだろう……と考えている。

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