日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は、乳幼児への「抗菌薬」使用について、自身も1児の母である森田麻里子医師が「医見」します。
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抗菌薬を2歳までに服用すると、アレルギー疾患の発症リスクが約1.4倍から1.7倍に高まるとの研究結果が、今月始めに報道されました。とても重要な研究ですが、その解釈には注意が必要です。これは決して、「抗菌薬は子どもに使ってはいけない」ということではないのです。
この研究は、国立成育医療研究センターの山本貴和子医師らがまとめたものです。2004年から06年の間に産まれた赤ちゃん902人を対象に、両親へのアンケート結果から、抗菌薬の使用歴と、アレルギー性疾患の発症に関連があるかどうかを調べました。すると、2歳までに1回でも抗菌薬を使用したことがある子は、そうでない子に比べて、5歳の時点で気管支喘息になっているオッズ比が1.72、アトピー性皮膚炎で1.40、アレルギー性鼻炎で1.65と、いずれも高かったのです。
これまでにも欧米では、抗菌薬がアレルギー性疾患の原因になるのではないかという報告はありましたが、この研究により、それが日本人にも当てはまることが明らかになりました。この研究は疫学的なものであり、なぜこのようなことが起こるのかについては、はっきりしていません。腸内細菌のバランスが乱れることが原因ではないかという意見も出てきています。
では、2歳までの子には抗菌薬を使わない方がいいのかというと、そうではありません。大切なのは、何歳の子であっても、大人であっても、必要な時にはしっかりと抗菌薬を使い、必要なければ使わないことなのです。
そもそも抗菌薬は、細菌が起こす感染症、例えば細菌性の肺炎・髄膜炎などを治すための薬です。厳密には異なりますが、抗生剤・抗生物質という言葉も抗菌薬とほぼ同じ意味で使われていることが多いです。一方で、風邪は細菌ではなくウイルスが原因です。ウイルスは、細菌よりずっと小さく、単独では生きていくことができないという性質を持っています。細菌とは全く違う種類の微生物なのです。