同研究所では、18年から睡眠に関する大規模調査を実施している。その調査によると、コロナ禍で在宅勤務が増えた影響が睡眠に表れているという。

「通勤時間が減り、基本的に睡眠時間は延びていますが、一方で詳しく見てみると、在宅勤務の悪影響も出てきています」

 一つは在宅勤務で朝早く起きなくてよくなり、寝る時間が夜中にシフトしたり、バラバラになったりしてしまっている点。今日はテレワークで明日出勤、次の日はまたテレワーク、となるとリズムがガタガタになって“時差”ができてしまう。自律神経のバランスに影響を与え、睡眠の質が悪くなるのだという。

 もう一つが運動不足だ。

「睡眠に必要なメラトニンというホルモンが夜にきちんと分泌されるためには、午前中にしっかり活動する必要があるんです。朝起きて朝日を浴びることで、メラトニンの材料になるセロトニンが分泌されますが、通勤がなくなりそれができない状態になった人が多いようです」

■朝食ではタンパク質を

 家にこもって一日中だらだら過ごしてしまう状態だと必然的に夜なかなか寝付けなくなり、夜中に起きてしまう中途覚醒も多くなる。

「解決策の一つとしては、通勤の代わりに、始業時間の前までに15分でもいいので外を散歩することを勧めています」

 野々村所長によれば、そもそも「よい睡眠」というものについて共通するきちんとした定義があるわけではないという。

「睡眠は減点法だとよく言われます。悪い要因が一つずつ重なることで、少しずつ質が悪くなっていく。ですので、なにか一つ特効薬的なものですべて解決するというものでもありません」

 朝食ではセロトニンの材料になるタンパク質をしっかりとること、運動はできれば夕方以降は避けること、入浴は就寝1時間前に済ませること。知ればすぐに実現できる「睡眠のための技術」はたくさんある。

「睡眠の役割は、要するに体と頭のメンテナンスです。以前は“休養”のイメージがあったかもしれませんが、休養はパソコンで言うとシャットダウンした状態。睡眠はそうではなく、一生懸命バージョンアップしている状態なんです。ホルモンを分泌させて体の状態をリカバリーし、脳ではいろんな感情やストレスを整理して捨て、メンタルバランスを整えています」

 空いた時間を睡眠に充てるのではない。睡眠を何より優先し、生活、仕事を組み立てていく。そんな“攻めの睡眠”の時代が幕を開けている。(編集部・高橋有紀)

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