佐川宣寿・前国税庁長官が、国会の証人喚問で、森友問題について安倍晋三総理夫妻、官邸、財務省首脳の関与はないと断言したことを受けて、安倍政権は、「これで疑惑は晴れた」と幕引きを始めた。
もちろん、ただ逃げるだけでは幕引きは難しい。そこで、安倍政権が持ち出すのが、「待ったなし」の外交案件だ。
しかし、安倍政権の目の前にある外交課題はいずれも一筋縄ではいかないものばかり。下手をすると、これまで巧みなイメージ操作で作り上げてきた「外交の安倍」という蜃気楼が一気に消え失せるかもしれない。
とりわけ、支持率が30%台前半まで落ちてもなお残る右翼的思考に取り憑かれたいわば岩盤層と言われる安倍支持層には、外交で日本の強さを示すことに非常に強い期待がある。森友から逃げるために外交に焦点を当てても、万一そこで成果が出ない、あるいは、「惨めな安倍」「譲歩する安倍」を見せてしまうと、岩盤層が一気に「反安倍」に転じる可能性もある。
これまで安倍総理は、世界一の強国のリーダー・トランプ大統領と並んで「100%ともにある」と言ってもらうだけで、いかにも安倍総理が強いリーダーであるかのような錯覚を国民に与えることに成功してきた。しかし、その頼みの綱であるトランプ大統領に無条件で依存することも難しくなっている。
例えば、困難な課題の一つである日米通商問題では、トランプ大統領が、日米間の貿易不均衡解消のための具体的措置を求めてくる可能性が極めて高い。
その第1弾として、トランプ政権は3月23日に、鉄鋼とアルミニウム製品の輸入について、「安全保障上の脅威」を理由に、おのおの25%と10%の追加関税を課す措置を発動した。カナダ、メキシコ、オーストラリア、ブラジル、アルゼンチン、韓国、EUは適用除外とされたが、トランプ大統領と世界一仲良しである安倍総理が率いる日本は除外リストに「入れてもらえなかった」。安倍総理の面目は丸つぶれである。
さらに、トランプ大統領は、「他の首脳も含め」と言いながらも、わざわざ安倍総理一人だけの名前を挙げて、「彼は微笑みを浮かべているが、こんなに長い間米国をうまく利用できる(take advantage of The U.S.)とは信じられないと笑っている(smile)のだ」「もうそんな時代は終わった」と述べた。これは、明らかに、日本に対する貿易戦争の予告である。これまでは、武器の大量購入と、世界の首脳たちに馬鹿にされるトランプ大統領へのあからさまなすり寄りで恩を売り、日米蜜月を演じていたが、そんなステージは、トランプ大統領による安倍総理への冷たい言動で終止符が打たれたかに見える。
実は、米国は、かねてから、日米FTA(自由貿易協定)の交渉を希望してきたが、日本側がのらりくらりとこれをかわしてきた。しかし、米国は、NAFTA(北米自由貿易協定)の改定交渉がカナダ、メキシコとの間で進み、韓国ともFTAの見直しで一定の成果が得られたのを受け、いよいよ、日本にも貿易上の大きな譲歩を求めるための交渉を迫ることにしたのだろう。その場合、焦点となるのは、農業分野だけではない。米国から日本への自動車輸出などについても、強硬な主張をしてくることが予想される。トランプ大統領は、今秋の中間選挙対策で、米国産業界が喜ぶ成果を上げることを最優先している。安倍総理がいくら媚を売っても、そう簡単に矛を収めてくれることはなさそうだ。