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 森友学園への国有地売却文書の「書き換え」疑惑が注目を集めている。カップルカウンセラーの西澤寿樹さんが夫婦やカップルの間に起きがちな問題を紐解く本連載、今回は「記憶の書き換え」について解説する。

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 国会では、財務省の文書改ざんが大問題になっています。国税庁長官が辞任したり、まだ関係があるのかはわかっていませんが、自ら命を絶つ職員も出るなど大変なことになってしまいました。

 私が相談を受けるご夫婦のカウンセリングでは、さすがに記録の改ざんが問題になることは少ないですが、記憶の改ざんで炎上することはままあります。

 以前、ご相談を受けた桃子さん(仮名)は夫の達也さん(同)と「もう別れたい」と言う一方、達也さんは「別れたくない」、という状態でした。が、その話の中で桃子さんが言った、

結婚していいことは何もなかった」

という発言が、波紋を起こしました。

 それを聞いた達也さんは、

「そんなはずない。別れたいからそんなこと言っているだけで、楽しいことだってたくさんあったじゃないか」

と、怒りながらも少々涙目です。

「新婚旅行で、バリ島に行ったときだって、楽しそうにしてたよ」

と達也さんが言えば、桃子さんは

「楽しかったのはあなただけで、私は楽しくなかった」

「ウブドで踊りを見て楽しそうにしていたじゃない」

といえば、

「あなたが楽しそうにしていたから、合わせていただけで、本当は楽しくなかった」

といい出す始末です。桃子さんは、達也さんが言うように、別れたいから嘘をついているのでしょうか?

 桃子さんの心の中を透視することはできませんが、おそらくNoです。実は、人の記憶は、現在の情報に大きく振り回されるのです。ロフタスというアメリカの心理学者は、さまざまな実験の結果、記憶というのは、見たもの、聞いたものをそのまま出してくるのではなく、思い出すときに記憶を再構成しているのだと主張しています。彼女の研究では、客観的な記憶まで変わってしまうという衝撃的なものです。目撃証言の信用性が崩れてしまうので、これは刑事裁判などでは大問題です。

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「記憶の改ざん」は人間のメカニズム