そう語るのは、光仁会第一病院院長の杉原健一医師。『大腸癌治療ガイドライン』を作成する大腸癌研究会の元会長だ。

 この試験の登録患者数は1057人。目的は、進行大腸がんにおいて、腹腔鏡手術が開腹手術に比べて根治性に関して、「非劣性」であることを証明すること。「非劣性」は学術的な表現で、言い換えれば「劣らないこと」「同等であること」をさす。つまり、腹腔鏡手術でも開腹手術と同じくらい治ることを証明する試験だ。

 大腸がんのうち、手術の難度が高くなる直腸がんを試験対象から外し、結腸がんでかつ比較的技術差が出ない部位を選んでおこなわれた。

 そして、発表された5年生存率の結果は、開腹手術の群が90.4%、腹腔鏡手術の群が91.8%だった。

 一見、腹腔鏡手術のほうが数値がよく、試験の目的は達したかに見えるがそうではない。どちらの群も5年生存率が当初の想定よりも高すぎ、統計学上、「非劣性は検証されなかった」という結論となった。つまり、根治性が同等と証明しようとしたができなかったのだ。報告書には「標準治療は従来通り開腹手術であり、腹腔鏡下手術は治療のオプションと結論した」と明記されている。

 一般の人からすると、どちらも「よく治っている」ので、同等と思えてしまうが、これは臨床試験としてはゆるぎない結果なのだ。しかし、外科医にとっても「解釈が難しい結果だった」とされる。

■腹腔鏡手術の割合は逆にやや増加している傾向

 実際に外科医は「JCOG0404」の試験結果をどう受け止めたのか。大腸癌研究会はアンケート調査を実施している。「今回の結果だけでは適応を変える根拠に乏しく現時点ではどちらともいえない」と回答した病院は198病院中130(65.7%)。「非劣性が証明できなかったので適応縮小(を検討)するべき」と回答した病院は9(4.5%)だった。

 臨床試験の結果をそのまま受け止めれば、適応縮小を検討する病院がもっとあってもいいはずだが、適応を変えた病院はほぼないといっていい。同調査では結果発表前後の年で、腹腔鏡手術の割合は「逆にやや増加している傾向」としている。

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