県立静岡がんセンターで多くの大腸がん手術をおこない、17年秋に東京医科歯科大学病院大腸・肛門外科教授に就任した絹笠祐介医師は、結果の解釈についてこう話す。
「腹腔鏡手術が否定されたわけではないですが、推奨されたわけでもありません。今後、このような大規模な比較試験がおこなわれる予定はないため、これからもガイドラインに従っていくことになります」
杉原医師は「エビデンスがそのまま臨床になるわけではなく、エビデンスを臨床にどう使うかは医師の判断」としつつも、次のように話す。
「現在は、どんな症例でも腹腔鏡手術を適応する病院が増え、行き過ぎた感があります。腹腔鏡手術をやりたい外科医は、この結果を『5年生存率がほぼ同じだから問題ない』と、自分たちに都合よく解釈して、さらに推進していく恐れがあります。腹腔鏡手術を控えたほうがよい条件もあり、私はすべてに適応する風潮を少し抑制していかねばならないと考えています」
「がんを治す」が置き去りにされ、「腹腔鏡でできるからやる」になっていると懸念する。
このような状況になっているのには、さまざまな理由がある。腹腔鏡手術は開腹手術に比べ保険点数が高く、病院の経営上、推奨される。また、患者が傷の小さい手術を求めるという理由から、外科医が「腹腔鏡手術ができないと患者が来なくなる、開業医から患者の紹介が減ってしまう」と恐れているとも言われる。さらに、若い外科医が「新しい技術を習得したい」と希望しているともいう。
国立がん研究センター中央病院大腸外科科長の金光幸秀医師はこう危惧する。
「標準治療が開腹手術であるということが軽視されてしまっています。技量がともなわない外科医が適応を甘くして腹腔鏡手術をすれば、再発が増える恐れがあります。患者さんにとっても、選択肢が『腹腔鏡手術しかない』となっては、本来治せるがんも治せなくなる可能性があります」
■自分の技術力を客観的に評価することが難しい