また、安保法制成立後、安倍政権は米国との間で、集団的自衛権の行使を前提としたさまざまな「戦争シミュレーション」を行っている。仮に命令発動前であっても、今になって、集団的自衛権が違憲だからなかったことにしてくれと言ったら、あのトランプ大統領が何と言うのか。日米関係はどうなるのか。
実は、そうした混乱を恐れて、高度に政治性を有する問題については、司法の判断になじまないなどという理由をつけて最高裁が判断を逃げる可能性がかなりあると私は見ている。これまでも、最高裁が政府の意向を忖度して違憲判断を逃げる時にたびたび使ってきた「統治行為論」だ。安倍政権も当然それに期待しているはずだし、その意向について、最高裁は言われなくても百も承知。忖度する可能性は極めて高い。
最高裁が判断を避ければ、結果的に合憲のお墨付きを得たのと同じ効果が生じる。判断を逃げたり、合憲判断をした裁判官を国民審査で罷免させるという手段も与えられてはいるが、それは次の衆議院選挙まで待たなければならず、それでは戦争が始まっていて手遅れかもしれない。
司法が行政や国会の暴走を止めるという役割を放棄するのであれば、それこそ、憲法の三権分立の大原則を否定することになるわけだが、その心配があるというのが、日本の「三権分立」の現状なのだ。
■これで憲法改正の必要性がさらに高まった! 具体的には?
一方、今回の高裁判断は安倍政権から見ればとんでもない事態だ。仮に地裁レベルでも、万一違憲判断が出されれば、集団的自衛権の行使が政治的には非常に難しくなる。野党、市民団体、学者たちが「違憲だ」と言っているのとはわけが違う。今まで、「違憲かどうかはよくわからない」と思っていた中立的な国民が、「裁判所も違憲だと言ったそうだ」と理解し、集団的自衛権に反対する人が急増する可能性が高い。
また、将来、集団的自衛権を行使して防衛出動命令を出して実戦が始まった後に違憲判決が確定したら、実戦配備していた自衛隊の任務を解除しなければならなくなる可能性がある。おそらく米軍からも、そんな不安定な状態での共同作戦は適切ではないから、早く憲法改正をして、安心して共同作戦ができるようにしてくれと言われるだろう。