あけの・かえるこ/1979年生まれ。2018年に小説『わたし、定時で帰ります。』を出版。シリーズ第3弾『わたし、定時で帰ります。-ライジング-』発売中(photo 本人提供)
あけの・かえるこ/1979年生まれ。2018年に小説『わたし、定時で帰ります。』を出版。シリーズ第3弾『わたし、定時で帰ります。-ライジング-』発売中(photo 本人提供)
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 42歳になってから1年間の休暇を取ったという『わたし、定時で帰ります。』の著者・朱野帰子さん。頑張らなくてもいい生活を続けて見えたこととは──。AERA 2023年2月13日号の記事を紹介する。

【写真】朱野帰子さんの著書『わたし、定時で帰ります。』はこちら

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 今回の特集のテーマが「うまく休む」だと聞いて、昔のことを思い出しました。今でこそ、うまく休むことは賢いことだと認識されるようになりましたが、たった数年前までは、ずるいイメージがあったと思います。

 ある男性が7年ぐらい前に育休を2週間取ったとき、同僚から「うまく休むよね」と言われたそうです。今思えばたった2週間の育休なんです。コロナに感染して休むのと同じくらい。

「勤怠管理」という言葉は、休むことを「怠ける」と書きます。さりげないところで、休むことは良くないという刷り込みがありました。

 私の話で恐縮ですが、「40歳を過ぎたら、働き方変えないとやばいよ」って諸先輩方から言われていました。

 たまの繁忙期に頑張って成長するのは30代まで。40歳からは、「たまに」も頑張れない。どんなに楽しい一日でも、どんなに飲み会で盛り上がっても、0時には寝ないと次の日に体が動かなくなる。土日もゴロゴロするだけじゃなくて、ちょっと運動したり、自然を見にいったりとか、頑張って「いい休み」を取らないと、月曜日に立ち上がれなくなりました。

■ミミズ文字をワードに起こすだけ

 でも、昔は頭脳労働の人って、作家なんかもそうですけど、「いくら脳を使っても大丈夫」「明け方まで飲んで、次の日も朝からぼーっとして会社行ってもなんとかなる」っていうふうに、休まない時代がありました。

 それができたのは、当時の働き方がゆっくりしていて、一日の労働密度がそんなに高くなくてもこなせたからだと思います。

 私が就職した二十数年前は、上司の書いたミミズ文字をワードに起こすだけの時間とかがあったんですけど、今は上司が完璧にワードで打って、「次の段階に進めてね」みたいな。1時間あたりにこなさなければいけない判断の数がとても多いと思います。しかも、「定時で帰れ」と言われます。労働時間を圧縮して、完璧なパフォーマンスを出さなければなりません。定時で帰っても、定時で帰ったことが翌日のパフォーマンスに貢献しないといけないと思わされてしまう。

 私は42歳になってから1年間、休みました。1年ぐらい休んでも生活できる資金がたまったのもありますが、小説『わたし、定時で帰ります。』がドラマ化してあまりにも忙しくて、人間としての生活を送れてなかったからです。バーンアウトしてしまいました。

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