松坂獲得に関して、早くも「もう終わっている選手」「若手の邪魔」という心ない声も聞こえてくる。しかし、松坂レベルのスターになれば、そうしたアンチの声がつきまとうのも、いわば当然のこと。勝負の世界は結果がすべて。予告先発制度で、松坂が先発するとなれば「やっぱり見たい」と思わせるだけの存在でもあるだろう。1軍での活躍が前提とはいえ、松坂自身が復活物語を描くことができれば、松坂自身はもちろん、松坂という“商品”に投資した中日の英断もたたえられる。その一方で、松坂が惨めな結果に終われば、そのキャリアにも傷がつき、中日の皮算用も嘲笑される。それがプロスポーツの面白さであり、厳しさでもある。
背番号「99」はかつて育成契約から這い上がり、2007年の日本シリーズMVPに輝いた中村紀洋がつけた番号だ。
「ベタに“足したら18”ですから、何か意味があるんじゃないかと思って、99を選びました」
野球人生をかけた背水のスタートにふさわしい、かつ、縁起のいい“逆境ナンバー”を背負うプロ20年目。かつて、10億円を超えた年俸は、わずか1500万円。「お金より野球を選択したんですね?」というストレートな質問に、松坂は間髪入れずきっぱりとこう答えている。
「プロ野球選手として、プレーできる場所がないとどうにもならない。その気持ちです」
カネじゃない。野球を、とことんまでやり抜く。50歳でいまなお現役のJリーガーである横浜FCの三浦知良や、今年2月の平昌五輪で通算8度目のオリンピック出場となるスキージャンプの45歳・葛西紀明らに見られるように、苦難を乗り越え、あくまで現役の第一線で頑張り続けるその男気と心意気は、スポーツファンだけに限らず日本人全体で共感できる部分は大きいのだ。
松坂大輔、プロ20年目の挑戦。さあ、表が出るのか、裏が出るのか。覚悟の37歳、その“どん底からの再出発”に、大いに注目したい。(文・喜瀬雅則)
●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。