野上祐(のがみ・ゆう)/1972年生まれ。96年に朝日新聞に入り、仙台支局、沼津支局、名古屋社会部を経て政治部に。福島総局で次長(デスク)として働いていた2016年1月、がんの疑いを指摘され、手術。現在は抗がん剤治療を受けるなど、闘病中
野上祐(のがみ・ゆう)/1972年生まれ。96年に朝日新聞に入り、仙台支局、沼津支局、名古屋社会部を経て政治部に。福島総局で次長(デスク)として働いていた2016年1月、がんの疑いを指摘され、手術。現在は抗がん剤治療を受けるなど、闘病中
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「半径500メートル」の政治記事を書きたいと思った。500メートルとは、我が家から最寄り駅までの距離だ。電車で移動する必要がない「ぐるりのこと」から政治を描きたい、と。テーマは安全保障にした。いざという事態が想像しにくくても、ひとたび起きれば、くらしへの影響が大きいからだ。

 さかのぼること1カ月前。北朝鮮が弾道ミサイルを発射した4月5日に自宅を出た。だが、すぐに何も書けないことに気づいた。何に目を向けたらいいかわからなかったからだ。

 そこで、東京都と区が法律にもとづいてそれぞれまとめている有事の際の「国民保護計画」の文書400ページ強にざっくり目を通して、歩き直すことにした。その間に、米原子力空母が北朝鮮を牽制(けんせい)するために朝鮮半島近海に向かうことになった、と報じられた。

 1週間後、自宅から、あるビルをめざして片側1車線の道を再び歩き出した。屋外にいてミサイルが落下したとき、まず避難先となるのは近くの丈夫な建物や地下だ。避難を誘導する警察官が立つのはこのあたりだろうか。道の渋滞は。ストップウォッチではかると、ビルまでは5分ちょっとだが、その日はすたすた歩ける体調でもなく、最寄り駅へは7分近くかかった。

 ミサイルが飛んできそうな時はメールで速報が流れ、屋外スピーカーで警報のサイレン音が鳴る。内閣官房のホームページ「国民保護ポータルサイト」で15秒のサンプルを聞いてみた。ぐーっと音程が上がり、下がる。耳障りな感じだが、逆に聞き入ってしまう。「本番」は聞きたくない。

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