いまの世界の動きを表すキーワードは「分断」だ。とりわけ、主役の一人といえるトランプ米大統領からは目が離せなかった。朝日新聞ニューヨーク支局の金成隆一記者が書いた「ルポ トランプ王国」(岩波新書)には、将来への不安から氏を支持する人々の姿が描かれ、地元新聞紙編集長のこんな米国社会の分析が紹介されていた。

「最近はますます自分の好きな情報だけを選んで見られるようになった。自分と同じ考えを持っている人としか話さなくなって、不満を持つ人同士がどんどんつながる」。ソーシャルメディアの影響で、自分が望まない情報からは、目を背けるということなのだろう。

 自分にも思い当たる節があった。家にこもりがちな暮らしで、外部と接する窓のひとつがフェイスブック(FB)だ。

 あるとき、気晴らしに、一人の著名人をFBでフォローした。途端に、政治に関する書き込みがあふれ出した。彼が「いいね!」をしたからだ。偏見を感じたり、言葉づかいが気になったりするものもある。しばらく様子を見てフォローを外した。世間をまるごと受け止めたいならば、そうした意見からも目を背けるべきではないのだろう。しかし、その余裕はなく、自ら社会への窓をあえて狭めた。

 読みたいものだけを読む、見たくないものは見ない。自分も同じだ。人は弱いときほど、世界を自分に都合よい方向に広げたり、狭めたりするのだろう。

 かつて朝日新聞で天声人語を担当した故・深代惇郎氏は「存在するものには理由がある。それを分かったうえで批判しないと、本当の批判にならない」と同僚に語ったという。

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