東京を中心に首都圏には多くの医学部があるにもかかわらず、医師不足が続いている。そのような中、現役の医師であり、東京大学医科学研究所を経て医療ガバナンス研究所を主宰する上昌広氏は、著書『病院は東京から破綻する』で、医学生にも人気の「総合診療医」について解説している。
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近年、厚生労働省は「一人の人間を全人的に診る総合的な診療に対応できる医師の養成」を目指しています。
NHKも「総合診療医ドクターG」という番組を放送しており、人気を博しているようです。ホームページには「病名を探り当てるまでの謎解きの面白さをスタジオで展開する!」と書かれています。新聞でも、「総合診療医」について好意的な記事が目立ちます。医学生にも、「総合診療医」になりたいという人が珍しくありません。
しかし、総合診療医の実態は、世間一般のイメージからかけ離れています。
私は、総合診療医に憧れている医学生に対しては考え直すように勧めています。厚労省が言うように「一人の人間を全人的に診る総合的な診療に対応できる医師」が養成できれば、実に素晴らしいことです。しかし、医師は一つの診療科に習熟し、一人前になるまでに、10年近くかかるといわれています。いくつかのジャンルで習熟できたとしても、全ジャンルでエキスパートになることは、現実的ではありません。
厚労省が総合診療医を勧めるのは、患者や医師にとってメリットがあるからではありません。総合診療医が厚労省にとって都合がいいからです。