東京を中心に首都圏には多くの医学部があるにもかかわらず、医師不足が続いている。そのような中、現役の医師であり、東京大学医科学研究所を経て医療ガバナンス研究所を主宰する上昌広氏は、著書『病院は東京から破綻する』で、前回に続いて「主治医の条件」について持論を展開する。
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■主治医の条件「コミュニケーション力はあるか」
コミュニケーション力は、多くの場合、人脈を持ち、社交的であることと同義です。
前回のコラム『平等な医療は「もはや建前」 現役医師が教える「信頼できる主治医を見つける方法」とは?』でお伝えしたように、祖母が夜中に呼吸困難を訴えたとき、祖母のかかりつけの主治医は、介護者である母の自宅からわずか数キロの距離にある関西ろうさい病院を紹介しませんでした。この医師は、関西ろうさい病院が夜間に急患を受け入れていたことは知っていたのでしょうが、この病院に患者の受け入れを依頼せず、病院探しを患者に任せました。一方、私が母に紹介した旧知の長尾和宏医師は、祖母を診察すると、心不全の疑いがあると診断して、即座に関西ろうさい病院に電話してくれました。
両者の間には大きなコミュニケーション力の差があります。
長尾医師は気さくで、患者、家族ともすぐに打ち解けます。おそらく持ち前のコミュニケーション力で、以前から関西ろうさい病院とも良好な関係を構築していたのでしょう。だから祖母を「入院させてください」と電話できたのでしょう。
関西ろうさい病院にとっても、普段から多くの患者を紹介してくれる長尾医師は信頼できる存在だったのでしょう。後日、私も祖母を見舞いに行きましたが、病床はほぼ満床でした。祖母を入院させるため、さまざまな調整をしてくれたのがわかりました。
医師が患者に責任を持ち、病院を紹介すべきですが、コミュニケーション力は一朝一夕に身に付けられるものではありません。いざというとき、うまく病院を使うためには、コミュニケーション力の高い医師との関係を普段から構築しておくほかありません。