著者:古賀茂明(こが・しげあき)/1955年、長崎県生まれ。東京大学法学部卒業後、旧通産省(経済産業省)入省。国家公務員制度改革推進本部審議官、中小企業庁経営支援部長などを経て2011年退官、改革派官僚で「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。元報道ステーションコメンテーター。主著『日本中枢の崩壊』『日本中枢の狂謀』(講談社)など。「シナプス 古賀茂明サロン」主催
著者:古賀茂明(こが・しげあき)/1955年、長崎県生まれ。東京大学法学部卒業後、旧通産省(経済産業省)入省。国家公務員制度改革推進本部審議官、中小企業庁経営支援部長などを経て2011年退官、改革派官僚で「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。元報道ステーションコメンテーター。主著『日本中枢の崩壊』『日本中枢の狂謀』(講談社)など。「シナプス 古賀茂明サロン」主催
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立憲民主党の枝野代表も議論を避けたある争点とは?(c)朝日新聞社
立憲民主党の枝野代表も議論を避けたある争点とは?(c)朝日新聞社

 自公圧勝となった今回の総選挙で、安倍政権が実質的に国民に問いかけた不調な論点は二つあった。

 一つは、対北朝鮮政策。このまま北朝鮮への圧力最優先路線を採り、日米同盟を強化することで日本を守る政策への信認を求めた。今回の勝利で、この路線を今後さらに思い切って進めることになるだろう。

 二つ目は、アベノミクス推進の是非。若干若者向けのバラマキを加えるが、これまで通りの経済政策を進めるという公約が有権者に承認された。これによって、これまで通りのアベノミクスが進められることになるだろう。

 自民党政権のこの二つの問いかけに対して、実は、野党側は有効な対立軸を示さなかった、と言ったら、そんなことはないという人も多いかもしれない。

 例えば、一つ目の対北朝鮮政策については、立憲民主や共産党などは、安保法制反対、憲法9条改正反対というハト派政策を打ち出していたから、それが対立軸になっていたはずだと思っている人もいる。

 しかし、北朝鮮政策について言えば、北朝鮮に対して対話を排除して圧力政策だけに頼り、そのためにも日米同盟を最優先するという安倍政権の方針には、その先に言外の結論が含まれている。それは、米国が北朝鮮を攻撃する時には日本もそれに参加協力するということだ。もちろん、それは日本と北朝鮮が戦争状態になり、日本にミサイルが飛んでくるということを意味する。この点が本当の論点である。

 国民にとっての死活問題だからだ。しかし、安倍総理はそこまでは言わなかった。本来は、野党がそれを抉り出して争点にすべきだった。ところが、野党、特に立憲民主党は戦争をなんとしても避けなければいけないとまでは言うが、それでは、対立軸を作ったことにはならない。なぜなら、ではどうするのかという答えを用意していなかったからだ。

 圧力だけでなく対話も大事だなどと言っても、そんなことで北が対話に応じるはずもない。実はこの問題で最も重要なのは、米国の要請があった時に日本がそれを断って、例えば、トランプ大統領がそれなら日本を守らないと言ってきたらどうするのかということだ。それでもこれを断れば、もちろん、日米同盟が揺らぐ可能性は高い。それを覚悟で米国の要請を断るのか、それともアメリカと事を構えるのは良くないと考えて米国に追随して戦争するのか。今、われわれ国民が答えを出すべきなのは、まさにその点についてである。

 つまり、安倍政権の路線で突き進み、日米同盟最重視で、北朝鮮からミサイルが飛んでくることを覚悟したうえで米国に協力するのか、それとも、日米安保体制が揺らいでも北朝鮮への攻撃に反対するのかということが、本来あるべき今回の選挙の争点だったのだ。この点を問いかければ、国論は大きく割れた可能性がある。

 しかし、実際には、立憲民主党も日米安保体制を見直すという点にまで踏み込む勇気はなかった。したがって、この点を強調して争点とすることはなかった。このため、有権者は、とりあえずは、アメリカの核の傘の下で守ってもらうしかないという既成観念から抜け出すことはできず、安倍総理の「北朝鮮の危機から国民を守り抜きます」という叫びに共感してしまった。野党が、いくら憲法がどうだ安保法制がどうだと言ってみても、リベラル系市民には響いても多くの有権者の心には響かなかったということではないだろうか。

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